さよなら、カノン
#7. バスルーム
明け始めた東の空にニワトリの鳴き声が響き渡る
庭の柿の木の枝から枝へと小鳥たちがちゅんちゅんと囀りながら飛び渡る
寝不足の表情の実穂子が階段を降りてくる
リビングのソファを見る実穂子
ソファにカノンがいない
タオルケットはソファの上に残っている
階段の上にパジャマ姿のカノンが立っている
髪はぼさぼさで寝ぼけ顔のカノン
実穂子 「起きちゃったの、カノン?」
タオルケットを畳みながらもうひとりのカノンは夢まぼろしであってほしいと願う実穂子
カノン 「うん」
実穂子 「まだ寝てていいんだよ」
カノン 「カノン、起きちゃった」
実穂子 「そう。じゃあ朝ごはんにしようか」
カノン 「うん」
と言って階段を一段ずつ降りるカノン
玄関の外でもの音がする
恐る恐る玄関に近づきドアを少し開けて外を覗く実穂子
犬小屋のほうからごぞごぞと動く影
犬小屋に上半身を突っこんで足をばたつかせるカノン
胸の底に重たいものを感じる実穂子
玄関ドアを閉め階段を降りてくるカノンを見る実穂子
カノン 「お外に誰かいるの? ママ」
実穂子 「ううん、誰もいないよ」
冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを一本取りだし玄関の外に置く実穂子
実穂子の動きを察して後ずさりし犬小屋を脱するカノン
玄関に顔を向けるカノン
カノン 「ママぁ、シロがいないよ。シロはどこぉ?」
無視しようとしても聞こえてくる声に混乱しそうになる実穂子