さよなら、カノン
#5. ふたりのカノン
吉川宅リビング
カーテンの隙間から早朝の陽光が射しこむ
カノンが眠っているソファに寄りかかって寝入っていた実穂子が目覚める
カノンの存在に安心するが安否を確かめるためにカノンを揺り起こしてしまう実穂子
実穂子 「カノン・・・。カノン・・・」
うっすら目を開けるカノン
実穂子 「(安堵して)おはよお、カノン」
実穂子 「カノン、何か食べる」
頷くカノン
実穂子 「何食べたい?」
カノン 「(しばらく考えて)ホットケーチ」
実穂子 「ホットケーチ? ママがとびきり美味しいの作ってあげる」
キッチンに向かう実穂子
ダイニングテーブルの上のスマートフォンに気づき電源をONにする実穂子
スマートフォンが起動する間に材料とフライパンを用意する実穂子
いきなりスマートフォンの着信音が鳴る
発信元は”正樹”
慌てて電話に出る実穂子
実穂子 「(正樹の言葉を遮って)パパ、ごめんなさい。スマホ切ってた」
正樹 「実穂子、どうした? 具合でも悪いのか」
実穂子 「ううん、大丈夫。パパ聞いて。カノンが、カノンが・・・」
正樹 「ああ、本当によかった」
実穂子 「あたしたちのカノンが帰ってきたのよ」
正樹 「奇跡みたいだ。2年前とほとんど変わってない」
実穂子 「変わってないって、まだカノンに会ってないくせに」
正樹 「(少し笑って)おかしなこと言うな。カノンなら僕の隣にいる」
実穂子 「(耳を疑う)えっ? ちょっと待って・・・」
正樹 「いましがた足高署から引き取ってきた。もうすぐ家につく」
ハイエースの後部座席で電話をしている正樹
正樹の隣で膝立ちになって車窓を眺めているカノン
実穂子 「ちょっと待って。カノンはうちにいるのよ」
正樹 「おいおい、変なこと言うなよ。夕べ遅くに足高署から電話があって、カノンらしき女の子を保護していると。実穂子と連絡がつかなくて僕が足高署に出向いて・・・。ほら、DNAが一致したという書面もある」
実穂子 「カノンは夕べあたしが見つけた。いま、あたしとうちにいるの」
ソファのひじ掛けに頭をのせてテレビを見ているカノン
正樹 「(やや混乱して)どうなっているんだ? とにかくもうすぐ家につくから」