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さよなら、カノン

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#3. 疑惑の眼



★1年前★

吉川宅の庭
ひざ丈の雑草が犬小屋やブランコの支柱を覆う
ブランコは片方のロープが切れて1本が垂れ下がっている
スチール製の物置小屋の引き違い扉が半開きになっている
物置の奥には遊ぶ者のいない三輪車やキリンの頭部がデザインされたホッピング


山間の寂れた公民館
玄関の横に立つみすぼらしい掲示板に”探しています”のビラを貼る実穂子
公民館を管理する村の世話役に頭を下げる実穂子
公民館の敷地を出て照りつける太陽を見あげる実穂子
吹き出す額の汗を拭う実穂子
通勤の人々が駅舎に吸い込まれていく
駅前ロータリーの隅で通りすぎる人々にポケットティッシュを配る実穂子
ポケットティッシュを受け取った人に頭を下げる実穂子
ポケットティッシュに挟まれたビラを一瞥して尻ポケットにしまうサラリーマン
夕刻のショッピングセンターのエントランスでポケットティッシュを配る実穂子
ポケットティッシュを受け取った人に頭を下げる実穂子
ポケットティッシュに挟まれたビラを抜き取ってゴミ箱に投げ入れる主婦
ゴミ箱に入らず床面で風に煽られるビラ
エントランスでビラを拾いあげる実穂子


吉川宅の庭のすっかり色づいた柿の木の葉が枝を離れ舞い落ちる
照明を落としたダイニング
疲れきった表情の実穂子
テーブルの上に安物のワインボトルとコップ
コップに残ったワイン飲み干す実穂子
キッチンの流し台に皿や鍋が洗わずに放置されている
リビングの壁に透明ビニールが被せられた浅葉小学校の制服
縁側のガラス戸を見やる実穂子
どんよりした空から粉雪が舞い落ちている


正樹が務めるプロダクションの事務所
ノートPCに向かって編集作業に打ちこむ正樹
年上の部下の宮田が心配げに正樹を見る

宮田  「チーフ、きょうも泊まりですか」
正樹  「今日中に片づけておきたいっすから」
宮田  「最近、家に帰ってないんじゃないですか」
正樹  「そうかな・・・?」
宮田  「そうですよ。奥さん・・・」
正樹  「家にいても、なんか落ち着かなくて」
宮田  「奥さん、ひとりで不安でしょうに」

吐きたい言葉を呑みこむ正樹

正樹  「でも、これ、僕が社長に提案したプロジェクトだから」

ノートPC画面を見つつ作業に没頭する正樹
吐息をつく宮田

足高署会議室
藤原と部下の青木、福住と冬装備の警察職員の4人

青木  「事件当夜駐車場にいた車両、すべて判明しました。その運転者全員に当たりましたが、事件につながる手がかりは得られませんでした」
福住  「あのキリンを積んだ軽トラックも?」
青木  「近くの住宅展示場に納品予定だったそうで、納品されたことも確認しています」
藤原  「そうか・・・。完全に手詰まりだな・・・」

作品名:さよなら、カノン 作家名:JAY-TA