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さよなら、カノン

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足高署会議室の窓の外に薄紅色に蕾がふくらんだ桜の木
会議室に藤原、青木、福住以下5人が集まっている
ホワイトボードに書かれた”身代金誘拐”と”交通事故”がバツ印で消されている
”転落水難事故”に新たにバツ印をつける藤原
”連れ去り”の文字が残る


サーブのトランクに段ボールを積み入れる実穂子
段ボールの開いた口から見えるのは“探しています”の大量のビラ
革靴を履きながら玄関からスーツ姿で出てくる正樹

正樹  「それで、福住さん何て?」
実穂子 「地元のボランティアさんが配るの手伝ってくださるって。助かるわ」

サーブのトランクを閉める実穂子

正樹  「それはよかった」
実穂子 「一緒に駅まで乗っていけばいいのに」
正樹  「いや、さっきメールがあった。もう着くって」

垣根ごしに背の高いハイエースが停まる

正樹  「半年ぶりの出社だ。これ以上会社に迷惑かけられない」

ビジネスバッグを肩にかけ直す正樹
垣根の外を小学校低学年の子どもたちがはしゃぎながら通り過ぎる
一瞬その声に気を取られる実穂子
実穂子の表情が曇るのを見てとる正樹

正樹  「ごめんな。実穂子ばかりに負担かけて」
実穂子 「私は大丈夫。しっかり稼いできて」

ぎこちない微笑みを実穂子に返し門扉を出る正樹
ハイエースが走り去るのを見届ける実穂子
鍵を手に扉が開けっ放しの玄関に戻る実穂子
ドアノブに指をかけ閉める寸前にあらためてリビングルームを見つめる実穂子
リビングの壁面フックにカノンが着るはずだった浅葉小学校1年生の制服が掛かっている
その下のチェストの上には真新しいランドセル
玄関ドアを閉め鍵をかける実穂子


作品名:さよなら、カノン 作家名:JAY-TA