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パンデミックの正体

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 と思う人もいるだろうが、健太郎という知事は、他の知事から絶大な支持を得ているので、知事会の中心として、国家に対抗できるだけの力は持ち合わせていた。
 そんなわけで、とりあえず、様子を見ることにして、その間に、二つのウイルスを発見したことになる。
 それほど危険性のない方は、報告をしたが、もう一つは、時期尚早であった。何しろ、報告してもただ、煽るだけで、対策もまったく分かっていない。一つでも大変なのに、もう一つと考えると、問題は結構、大きかった。
 もう一つの危惧としては、
「一匹見たら、十匹はいると思え」
 と、いう話を聞いたことがあるように、ウイルスも一つが発見されてから、立て続けにまた発見されているではないか。だから、これからどんなウイルスが発見されるか分からない。
 闇雲に報告、発表をしてしまっては、本当に混乱を招くだけ、そのことは、宗次郎には、よく分かっていた。
 だから、このことは、健太郎にだけは話をしておいた。
 健太郎も、
「そうだな、今報告すると、混乱を招くだけだ。よく我慢したな」
 といって、宗次郎を褒めたが、宗次郎も、分かり切っていることだと想って、頷くだけであった。
 だが、このウイルスは想像以上に厄介だった。
 今は、
「ウイズパンデミック」
 ということで、人流抑制もしない。
 これだけ、医療がひっ迫していても、政府は完全に見殺しだ。そんな危機的状態で、国民にいうことは、
「引き続き、感染対策の徹底をお願いします」
 という、馬鹿の一つ覚えでしかないのだ。
「人が自宅でバタバタと死んでいるのに」
 と思ってみたが、まだ国家に逆らうだけの力はない。
「いずれは、国家に対して、こちらの方が主導権を握って、政府に命令を出せるくらいの研究所にしたい」
 というのが、スローガンであった。
 ただ、最終目的というほどのことはない。あくまでも、
「そこまでできてからが、二度目のスタートラインだ」
 と思っていた。
 つまり、この研究所は、二段階、いや場合によっては、もっと小刻みにスタートラインがあるのだ。
「まるで金太郎飴のようだ」
 といえるのではないだろうか?
「どこを切っても金太郎」
 それが、この研究所の理念だといってもいいだろう。
 ただ、この最強と言われるウイルスは、
「基本的な感染対策」
 うがい、手洗い、マスク、換気などという子供だましで抑えきれるものではない。
 これこそ、
「人流抑制」
 が必要で、都心部に人が一人もいないという状況を数日続けて、
「やっと、終息を迎えられるかも知れない」
 というところである。
 ただ、このウイルスは変異というテクニックを持っていない。だから、一旦滅んでしまうと、絶滅したといってもいい。そこだけが、このウイルスに対しての強みだった。
 しかし、今は
「ウイズパンデミック」
 なので、政府の方針はまったく逆だ。
 しかも、他のウイルスに紛れていて、正体を現さない、一種の、
「ステルス性のウイルスだ」
 ということなので、これほど、厄介なものもないといってもいいだろう。
 だが、このウイルスに関しての脅威が強すぎるので、案外、もう一つのウイルスを忘れがちになってしまうが、実は、それも、
「ウイルス側から見た罠」
 といってもいいだろう。
 脅威を強く印象付けるために、わざと、最初にそんなに厳しくないものを見せておいて、その後で、恐ろしいウイルスを発見させる。
 そのことで、研究員の目は、脅威な方にしかいかない。
 そのため、
「簡単なものを先に始末しておいて、その後で、脅威に向き合おう」
 と感じているだろう。
 しかし、実は逆なのだ。
「この恐ろしいウイルスと、そんなに脅威ではないウイルスとでは、お互いに仇敵のような存在で、それぞれにけん制し合い、殺すことはすぐにはできなくても、蔓延させることはできない」
 つまりは、お互いに抑止力をもっていて。もし、計画のように、簡単に始末できる方を始末してしまうと、もう手遅れになるということだ。
 そこまで考えて先に、そっちのウイルスが見つかるようにさせたのだとすれば、その力はどこから来たというのだろう。
「悪魔のような神が存在し、人間に挑戦しているのだろうか?」
 いやいや、相手は神だ。
 そこまで人間を意識するだろうか? もししている考えるのであれば、それこそ人間の傲慢さで、この神も、一連のウイルスも、その人間の傲慢さが作り出したものなのではないか?
 といえるだろう。
 そんなことを考えていると、忘れかけていた言葉を思い出させる気がした。
「何だっけ、あの言葉」
 と自分に言い聞かせていると、やっと思い出した。
「そうだ、毒を以て毒を制すという言葉ではないか?」
 ということであった。
 これはウイルスの世界だけではなく、人間社会にも言えることである。
 この言葉を思い出していると、今回のウイルスを、簡単に処分してはいけないと感じ、今度は急いで、国家に対して、
「以前報告したウイルスは、キチンと研究してから、葬り去るようにしてください」
 といって釘を刺さなければならないと思った。
 そして、代表で、健太郎が政府の、
「厚生労働大臣」
 に具申をした。
 それを聞いた厚生労働大臣は、
「分かりました。専門家委員会に申し出ます」
 といって、連絡を切ったのだが、今度は専門家委員会の方でも、強力なウイルスの存在を知ったようだ、
 それを聞いて、厚生労働大臣に、
「どうするおつもりですか?」
 と聞くと、
「専門家委員会の方では、まず、簡単な方をやっつけて、それから手ごわい方に当たるといっています」
 というので、慌てて、宗次郎も交えてこちらで研究した内容を、厚生労働大臣に具申した。
 すると、
「どうして、そういう大切なことを、早く言ってくれなかったんですか? 全滅させてしまいましたよ」
 と言って、訝しがっていたが、それでも、真実真剣な様子ではない。
「こいつら、まだ、お花畑にいるつもりなのか?」
 と感じたが、もうどうすることもできない。
 微々たるウイルスが残っているので、それを媒体にして、特効薬を作っても、わずかしかできなかった。
「しょうがない。俺たちだけでも、摂取するか?」
 ということで、要するに、一番、最初に携わった自分たちだけでストップをかけておけば、何とかなると思っていた。
 だが、実は一番弱いと目されたウイルスは、世界的パンデミックにも効いたようで、本来なら、これで終息するはずだったパンデミックはまだまだ続くことになる。
「第二の特効薬となるウイルスが、そのうちに出てくる」
 としか言えなかった。
 そう、ウイルスの世界は、今も昔も、これからも、
「毒を以て毒を制す」
 ことしかできないのだ。
 今まで死滅してきたのは、自然界の生態系が自然とそうなっていたからうまくいったのだが、今はその生態系を人間が自ら壊してしまったのだ。
「そう、今回のパンデミックは、我々人類に対しての、自然界からの挑戦なのではないだろうか?」
 と考えたが、まさにそうなのかも知れない。
作品名:パンデミックの正体 作家名:森本晃次