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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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たたかえ!ヒーローお母さん

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 やっぱりシンヤはえがおで答える。
 なんだかへんだ。
 シンヤは自分のこと「ぼく」なんていわない。
 ふんいきも、いつもとちがうような気がした。
 だけど、これはシンヤと話し合うチャンスだ。今はぼくたちいがいにだれもいない。
 屋上の時の事について、もう一度話ができる。
 「シンヤ、ごめん。あの時大声出したりして。ぼくはシンヤと、うちのお母さんが悪いスライムをやっつけた話をしたかっただけなんだ。でも、シンヤがぜんぜんわかってくれなかったから…つい」
 ぼくはいきおいよく頭を下げた。そして、顔をあげてチラッとシンヤをみた。
 シンヤはあいかわらず目を細めていた。
 「君のお母さんが悪いスライムをやっつけた話ねぇ…」
 シンヤは鼻からふ-っと息をはきだすと、頭をふった。
 「そんな話はどうでもいいからさ。クイズをしよう」
 どうでもいい?クイズだって?ぼくの話、聞いてなかったのか?
 「問題。どうしてぼくは今日、<このかっこう>をして君の前にあらわれたでしょう?」
 「なんのことだかわからないよ。<このかっこう>ってなに?」
 できるだけぶっきらぼうに答えたつもりだったんだけど、シンヤはぜんぜん気にしてないみたいだった。
 「ブッブー。ふせいかい。答えはね。君をゆだんさせるためだよ」
 そういうと、今までハリガネを曲げたようだったシンヤの目が、急にカッと開いた。
 「ひっ!」
 シンヤのその目を見て、ぼくは思わず後ずさりした。
 なんとまっかだったんだ。
 この赤い色。これは、もしかして…。
 考えだしたら、あせがおでこからダラダラとふきだしてきた。
 ぼくが答えをいう前に、シンヤの体はみるみるうちにとけて、黒いスライムになっていった。

 ⒖ 正体

 「お前は、スライムのかいじん!」
 「かいじんなんて、しつれいだね。ぼくはテキシン星人だよ」
 ぼくがさけんだのと同時に、スライムは黒いドロドロの体の半分をぼくにとばしてきた。
 ベチャ!
 きたない音がして、黒いベトベトがぼくの頭にたたきつけられた。
ベトベトは頭から足の先まですっぽりとぼくをつつみこんでしまった。
 手足をばたつかせてふりほどこうとしたけど、ねばついてちっともとれない。
 ふしぎと息はできる。まわりの様子も、暗くてにごってるけどわかる。
 でもいくらキックしてみても、スライムにあなを開けたりすることはできなかった。
 「そんなことをしてもむだだよ」
 黒いスライムは何回かのびたりちぢんだりすると、あっという間にシンヤのすがたにもどった。目の中は赤いままだ。
 「よくもあの時はぼくの体をとかしてくれたね。おかげでしばらく休まなくてはならなくなった」
 <体をとかす>。その言葉でようやくわかった。 
 こいつはしょうてんがいでぼくに「ゆるさない」といった、あの小さなスライムだ!
 「ちりぢりになった体を集めてね。ようやくなおってきたんだ」
 いたかったのを思いだしたのか、スライムのシンヤはにのうでをさすった。
 「あのしょうてんがいは、ぼくたちの<きち>にするはずだった。そこからどんどん数をふやして、いずれはこの星をぼくたちの星に作りかえるつもりさ」
 「作りかえる?あそこを<きち>に?」
 やっぱりこのスライムは悪いヤツだったんだ。
 「それなのに…」
 と、スライムのシンヤはいいかけてやめた。
 「今回もまたじゃまがはいりそうだね」
 スライムのシンヤがため息をつくのと同時だった。
 「そこまでよ!」
 聞きおぼえのある声がした。
 そっちの方をみると、へんしんしたお母さんがいた。マントをはためかせながら、ぼくたちの前に立っていた。

 ⒗ たたかえ!ヒ-ロ-お母さん

 「これは…いったいどういうこと?」
 お母さんはものすごくビックリしているようだった。
 とうぜんだ。今きたばっかりのお母さんには、シンヤがぼくのことを閉じこめているようにしかみえない。
 「またお前か!」
 スライムはお母さんが目の前にくると、きょうりゅうにすがたをかえた。
 あれは、ティラノサウルスだ!
 「あ!あんたは、この間のスライム!」
 急に見た目がかわったことで、お母さんも気がついたみたいだった。
 ティラノサウルスは「ウォ-!」とものすごいおたけびをあげると、お母さんに向かってもうアタックしてきた。
 「あ、あぶない!」
 「たまごアイス!」
 お母さんが急いでまほうのじゅもんをとなえた。
 やっぱりこれもお母さんのてりょうりの名前だ。
 となえ終わると、お母さんの手の平からたまごがたの氷がとびだしてきた。
 一つ一つが一メートルくらいあって、すごく大きい。
 氷のかたまりにボカボカなぐられたティラノサウルスは、ギャイン!とへんな声をあげながら後ろにさがった。
 「よかった!きいてる!そこの君、今助けるからまっててね!」
 お母さんがこちらを向いて声をかけてくれた。それだけで、すごく安心する。
 お母さんは強いんだ。一度勝った相手だし、楽勝楽勝。
 そう思っていたのに。
 ティラノサウルスが自分にとんでくる氷のかたまりを口でキャッチし始めた。
 口に入った氷をまるでアイスキャンディーを食べるみたいにボリボリとかみくだいていく。
 「それなら…」
 お母さんはすぐに次のじゅもんをとなえ始めた。前の時みたいに手をいそがしく動かしてなにか空中に書いている。
 「からあげ!大もり!」
 しょうてんがいの時にも使っていたあのワザだ。
 指先からたいりょうの油みたいなものがあふれだした。ベトベトのアツアツだ。
 それがティラノサウルスの体に思いっきりかかった。
 「ギヤーーーーー!」
 かかったところがとけて、ティラノサウルスは横向きにたおれた。
 へんしんがとけて、きょうりゅうから黒いスライムにもどっていく。
 「やった!」
 今度こそやっつけられたかもしれない。思わずスライムのかべを両手でガンガンたたいた。
 と、そのとたん。
 なぜかそのかべが急に動きだした。そのまま、すべるように<本体>の方へ戻っていく。
 お母さんが大きく口をパクパクさせているのがみえた。なにかぼくにいっているようだったけど、何をいっているのかはわからなかった。
 ぼくは引きずられながら、その本体のすぐとなりまでいどうさせられていた。
 「う…」
 なんでだろう。こきゅうがしづらくなってきた。
 ぼくが入っているスライムがぬっと起きあがった。すると全体がキュッとしぼんで、また息が苦しくなる。
 「この中の空気をだんだんぬいていく。そしたらこいつはどうなるだろう?」
 スライムは意地悪そうにいった。
 「苦しい…」
 のどを両手でおさえたけど、ぜんぜん引きはがせなかった。
 「やめて!」
 お母さんがさけんだ。今にも泣きそうな声だった。
 「やめてほしければそこでとまるんだ」
 お母さんがスライムのいう通りにすると、ぼくをつつんでいたスライムはたまごみたいにパカッとわれた。
 息ができる!
 口から勝手にぜいぜいとあらい息がもれた。
 パカッとわれた部分はそのまま形をかえて太いへびみたいになった。へびはお母さんに近づくと、しばりあげるようにまきついた。