小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

たたかえ!ヒーローお母さん

INDEX|8ページ/8ページ|

前のページ
 

 「うあぁ!」
 「!」
 「このまま、ほねをおる」
 どうしよう。このままじゃお母さんがやられちゃう!
 ぼくはその時、思いだした。しょうてんがいのあの時。 
 シンヤを起こそうとしているぼくにスライムがよってきたから、お母さんがつくったスポーツドリンクをかけた。
 そうしたらスライムがとけてにげていったんだ。
 そうだ。これだ!
 「お母さん!」
 「え?のぶ?今、お母さんって…」
 お母さんの目がまんまるくなった。
 あ。つい、いっちゃった。でもしょうがない。今は<きんきゅうじたい>だ。そんなこと気にしてる場合じゃない。
 「お母さん!まほうでスライムにスポーツドリンクをかけて!」
 「だまれ!」
 まずいと思ったのか、大きめのおにぎりくらいのサイズのスライムがとんできて、ぼくの口をふさいだ。
 また息ができなくなりそうになった。けど、そのおかげでヤツの気がぼくの方に向いた。
 お母さんはそのすきをついて、おしりの後ろでじゅもんを書き、
 「スポーツドリンク!」
 と、さけんだ。
 すると、人さし指の先から黄色い水が出てきた。ものすごいいきおいと水のりょうだ。まるで、しょうぼうしゃのホースからでてきたみたい。
 お母さんはその指を、自分をしばっているスライムに向けて放った。すると、かかった部分が、じわじわととけていった。
 スライムは、今まで聞いたことがないようなキンキン声をあげていた。お母さんをしばっていたところは、もう半分しかない。
 やった!せいこうだ!
 黄色い水がはね返ってこっちにもかかったけど、ぼくにはなんにも起きなかった。
 ちょっとベタベタする。服についたものをなめてみたら、すっぱかった。
 お母さんのスポーツドリンクだ。
 あっという間に、スライムはどんどんとけていった。
 その間スライムはずっと「やめろ-」といっていたから、ぼくはぎゃくに
 「お母さん、やめちゃだめだ!中の赤い玉がなくなるまでやめちゃだめだ!」
 と、教えてあげた。お母さんはぼくのいう通りにしてくれた。
 やがてスライムの中の赤い玉もかんぜんにとけて、まわりには水たまりしかなくなった。
 ぼくたちはホッとしておたがいに顔をあわせた。
 そして、白いマントすがたのお母さんは、ぼくをギュッとだきしめてくれた。
 はずかしいけど、その後ぼくは、思いきり、思いっきりないた。

 ⒘ たたかいが終わって

 「そう。のぶは全部知ってたんだ」
 あの後、気持ちが落ちつくまで二人でブランコに乗った。
 へんしんをといたお母さんはス-ツすがたにもどっていた。
 ブランコを小さくこいでいる間、これまでのことをたくさん話した。
 スマホをとどけようとした時のこと。
 しょうてんがいでのこと。
 ス-ツのポケットの紙のこと。
 あと、シンヤとケンカした時のこと。
 「それはね。お母さんのせい。ごめんね」
 シンヤの話が終わると、お母さんは頭をなでてくれた。
 「クレンザ-のじゅもんはね。物や人のきおくをおそうじしてくれるまほうなの。シンヤくんがあの時のことをおぼえていると、とてもキケンなの。そう思ってお母さんがシンヤくんのきおくを消してしまったのよ」
 そうだったのか。これでようやくわかった。
 あの時のあの光。あれはお母さんがシンヤに使ったクレンザ-のまほうの光だったんだ。
 屋上の前で話した時のシンヤは、意地悪をしていたんじゃなかったんだ。本当になにも知らなかったんだ。
 なんにもわからないシンヤと、それにものすごくおこっていたぼく。
 なんてトンチンカンだったんだろう。
 なんだかおかしくなってきた。今度こそ、本当にあやまれそうだ。
 「ところでお母さんのまほうって、なんでりょうりやらせんざいの名前なのさ?とってもヘンたよ」
 お母さんがたたかっている間、ずっと思ってた。ジャステインのメンバーだったら、もっとかっこいい名前のワザを使うのに。
 「からあげ」だの「クリ-ムチキンシチュ-」だの、ぜんぜんヒ-ロ-っぽくない。
 お母さんはまゆげを「へ」の字に曲げて「そうね」とわらった。
 「このス-ツをきると使える「力」はね。だれかになにかしてあげたい、だれかを幸せにしたいっていう気持ちが原動力になっているの」
 原動力っていうのは、力のもとになるエネルギーね、とお母さんはせつめいしてくれた。
 「それがね、お母さんの中ではおうちの仕事だったの。おりょうりを作っている時の、家族のみんなへの気持ちを思いだして、そのレシピの一部を手で書きだすの。それが悪いヤツとたたかうまほうになるのよ」
 「そうなんだ」
 家族への気持ちが原動力。お母さんは家事をする時そんなふうに思ってたんだ。 なんだかくすぐったい気分。それでいてはずかしいような。
 なんとなくお母さんの目をみていられなくなって、ついそっぽをむいてしまった。
 そんなぼくの頭を、お母さんは両手でがっしりとつかんだ。
 「さっ!落ちついたようだし、そろそろ帰りましょうか!」
 そういうと、お母さんはかけだした。ぼくはそれを全力で追いかけた。
 そのままおにごっこをしながら、ぼくたちは家に帰った。

 ⒙ きねんのスポーツドリンク

 先にいうと、お母さんは仕事をクビにはならなかった。でも、そのかわりにぼくのきおくは消さなきゃいけないらしい。
 どうしてものこしておいちゃだめ?ってねばってみたけど、それだけはできないっていわれた。ざんねん。
 だからさいごにおねがいした。
 明日一日だけ待って。シンヤにちゃんとあやまらせてって。お母さんはにっこりしながらOKしてくれた。
 
 次の日。ぼくは休み時間に学校のろうかにシンヤをよびだした。
 「シンヤ。この前はどなってごめん」
 「いや、おれもゴメンな。マザコンとかいっちゃってさ」
 シンヤはほっぺを指でかきながらわらってくれた。
 その後の休み時間はずっといっしょだった。ドッチボールもしたし、シンヤのすきなサッカーの話もした。
 ほうかごもいっしょに帰ることになった。シンヤがとなりにいる。
 ぼくはその日、なにが起こってもわらいっぱなしだった。
 「ただいまー!」
 ごきげんで家に帰ると、テレビの前のソファでお姉ちゃんがヘッドホンをつけてすわっていた。
 「ちょっと、うるさい。ドアノブ!音楽聞いてるんだから、しずかにしてよ」
 「はーい」
 いつものお姉ちゃんのトゲのあるいい方も、今日はそんなに気にならない。
 「あー、のどかわいた!」
 今日もまたまた暑かった。ぼくはまよわずれいぞうこからお母さんのスポーツドリンクを取りだした。
 「えっ、ドアノブそれ飲むの?すごいすっぱいやつじゃん」
 ソファからふりかえったお姉ちゃんがうぇ〜とベロをだしてみせた。
 お姉ちゃんはこのスポーツドリンクがかいじんをやっつけたことを知らないんだ。
 いつもいばってるお姉ちゃんが知らないことを、ぼくは知ってる。
 なんだかちょっといい気分で、ぼくはコップに注いだスポーツドリンクをがぶ飲みした。
 
 ごくん!

 あぁ、すっぱい!