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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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たたかえ!ヒーローお母さん

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 月曜日になった。教室につくと、ぼくはさっそくシンヤにこのことを話した。
 「そんなのウソだろ」
 シンヤは自分のせきでほおづえをつきながら、さもばかにしたようにいった。
 「ウソじゃない」
 「ウソじゃなかったら、お前のかあちゃんがヒーローのかっこうして、でてきただけだろ」
 「ちがう」
 「じゃあ、その道のいきどまりにマゴコロせんたいのホワイトみたいなやつがいて、いれちがいになっただけかもしれないじゃないか」
 「ちがう!!」
 「とつぜん消えたのだってなにかのみまちがいだろ」
 ぜんぜんしんじてくれない。ぼくはついムキになった。
 「ぜったいみまちがいじゃない!…そうか!きっとお母さんの正体はマゴコロせんたいのホワイトなんだ!」
 思いつきをいっただけだった。
 だけど、いってみたら本当にそれが正しいような気がしてきた。
 そうか。テレビにでてくるジャステインのホワイトはもしかしたらお母さんなのかもしれない。
 ぼくは大真面目だった。でもシンヤはこの話を、さけるんじゃないかってくらい大きな口を開けてわらいとばした。
 なんだよ、もう。
 シンヤはしばらくヒィ-ヒィ-のどのおくからへんな音をだしていた。
 ぼくはしらけてその間ずっとムシをしていることにした。
 「はあ、わらった。なぁ、お前さあ。そんなにいうならかけるか?」
 両目のはしっこにたまったなみだをふきながら、シンヤはいった。
 「かける…?」
 「そう。おれとお前とでお前のかあちゃんの後をつける。そんでへんしんするところがみられたら、お前の勝ち。なんにもみられなかったらおれの勝ち。期間は1ヶ月。負けた方が勝った方にビッタマチョコ十こな」
 ビッタマチョコ。それは今、学年中ではやっているシール入りのチョコレートがしだ。
 一こ百円だから、十こ買ったら千円になってしまう。
 そんなお金はなかった。
 だけど、ここでいやだなんていえない。
 「うん。いいよ」
 本当はどうしようって思った。でも、後には引けない。
 「よし。じゃあ、さくせんを立てよう」
 シンヤはニヤリとわらった。
 
 4 まちぶせ

 さくせんといっても、たいしたものじゃなかった。
 
 ①これから一ケ月間、うちのだんち前の公園でお母さんがでてくるのをみはる。
 ②そこでお母さんが部屋からおりてきたら、こっそり後をつける。
 
 これだけだ。
 ぼくたちは計画通り、だんち前の公園にいた。だけど…
 「あーあ!ひまだなぁ。おれも同じクラスのソノダみたいにゲーム買ってもらえてたらなぁ」
 ベンチにもたれ、シンヤはうーんとのびをした。
 かけを始めて三週目の土曜日。これといってとくにいじょうなし。遊具で遊ぶのにもあきてしまった。
 「お前がかあちゃんに予定を聞いとけば、その前に集まれるのによ」
 「今までお母さんの予定なんかきいたことないのに、急にききだしたらあやしまれるよ」
 「そうかよ。ま、ビッタマチョコのためだからな!」
 シンヤはいまだにまったくしんじていないらしい。たしかに三週目ともなるとぼくの方もふあんになってくる。
 あの時はきょりも遠かったし、もしかしてこの前のできごとは目のさっかくだったのかも。
 今、ちょきんばこにいくら入ってたっけ…。
 頭の中で、こぜにの数を数え始めた時、
 「おい!あれ!」
 だらけていたシンヤがはね起き、ぼくのかたをたたいた。
 「あれ、そうじゃね?」
 かいだんをおりようとしているのは、たしかにお母さんだった。またあのこん色のスーツをきている。
 「どうする?」
 「とりあえず遊んでいるフリをしようよ」
 「よし」
 小声でいい合ってからぼくたちは、目の前のパンダとゾウの遊具に急いでとび乗った。
 三階と二階のまんなかでようやくこっちをみたお母さんは、大声でぼくたちに手をふった。
 「シンヤくん!のぶ!暑くないの-?」
 と、いってから
 「ちょっと待ってて!」
 と、急に三階までもどり始めた。
 そして、部屋に入って少したってから、手になにか短くて太いぼうのような物を二本持ってでてきた。
 「はい。これ」
 お母さんがおりてきた。わたされたのは、二本のスポーツドリンクだった。
 シンヤにはお店で売っているペットボトルタイプのもの。ぼくにはかたひものついたすいとうだった。
 「朝から遊ぶのはけっこうだけど、まだまだ暑いから水分ほきゅうはしっかりね」
 「あざっす!」
 シンヤは受け取るなり、キャップを開けて飲み始めた。いっきに半分くらい飲んで、まんぞくそうにため息をつく。
 「あ-!うめぇ!生きかえるー!」
 「じゃ、二人ともなかよくね」
  お母さんは手をふっていってしまった。
 「のぶ、お前は飲まないのか?」
 「え、うん…」
 シンヤにいわれてチラッと手もとのすいとうをみた。
 これの中身をぼくは知ってる。お母さんとくせいのスポーツドリンクだ。
 夏場になるとれいぞうこに入ってる。
 お母さんにいわせれば「クエンサン」っていうのがたっぷり入って「元気百倍!」なのだそうだ。
 だけど実は、家族のひょうばんはイマイチ。
 味がうすくてすごく、すっぱい。
 本当はぼくもシンヤみたいに、お店で売ってるペットボトルの方がよかった。
 でも、今日はたしかに暑い。のどがカラカラだ。
 ぼくはすいとうのふたを開けると、かくごして飲んだ。
 「すっぱい!」
 予想通り。いつもの味だった。
 でも、中のスポーツドリンクがキンキンにひえていたおかげか、頭が少しスッキリする。
 ぼくはすいとうを首にかけると、さくせんの方に頭を切りかえた。
 今日、お母さんはあのスーツをきていた。
 さいきん仕事だといっては、あのスーツをきてでかけることがふえた気がする。
 お母さんの「仕事」。
 その時にいつもきていく「こん色のスーツ」。
 そしてその後にあらわれた「ジャステインのホワイト」。
 ぼくの頭の中でこのが三つがつながった。
 今日こそはもしかすると、もしかするかもしれない。
 「シンヤ。そろそろいこう!」
 「おう!」
 十分きょりを取ってから、ぼくたちは歩きだした。

 ⒌ ついにもくげき

 お母さんはかなり先を歩いていた。
 ぼくたちとは二十五メートルプールのはしっことはしっこくらいのきょり。
 十分はなれているとは思ったけど、ふりかえられたらおしまいだ。
 ぼくとシンヤは路地の角にかくれたり、また進んだりしながら、後をつけていった。
 進む内にぼくはどんどんふあんになってきた。
 お母さんはどこにいくつもりなんだろう?
 こっちの道の先には、はいきょになってしまったしょうてんがいしかない。
 駅やお店がたくさんあるにぎやかな道とは正反対の方向だ。
 しょうてんがいの入口には黄色いテープが何重にもまかれて、入れないようになっている。
 ぼくもその前を通りかかることは何度かあった。
 テープのおくの通りは昼間でもうすぐらくてこわい。自分からせっきょくてきにいきたくなる場所じゃなかった。
 じっさい、ここで夜、なにかヘンなモノをみた人が、いるとかいないとか…。
 ブルッ…。なんだか寒くなってきた気がする。気のせいかな。