小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

たたかえ!ヒーローお母さん

INDEX|1ページ/8ページ|

次のページ
 
⒈ 日曜日の朝

 ジャガジャーン!ジャジャジャジャラーン!

 この音がテレビから流れてきたら、ぼくはどんなにつかれてたってねむくたって、ベットからとび起きる。 
 日曜日の朝の始まりだ。
 この音はぼくが大すきな番組「マゴコロせんたいジャステイン」のオープニングのイントロだ。
 この後は「みんなの平和を守るため、真心こめてわれはゆく」とつづく。
 歌の歌詞だって全部おぼえてるんだ。
 「のぶー?起きたー?ジャステイン始まるよー」
 台所の方からお母さんの声がする。
 子ども部屋のふすまを開けたとたん、朝ごはんのいいにおいがただよってくる。
 起きたとたん、ジャステイン。
 そして、おいしそうな朝ごはん。
 今日はとってもいい日な気がする。
 なにかいいことが起こりそうだ。
 お母さんは台所でまな板をあらっていた。
 めずらしくこん色のスーツなんか着て、その上からエプロンをつけている。
 「お母さん、今日はかっこうがちがうね」
 お母さんのスーツすがたなんてはじめてみた。
 「そう?今日お母さん、〈はつしゅっきん〉なの」
 ふりかえったお母さんはいつもとちがって、しっかりおけしょうをしていた。
 「へえ」
 〈はつしゅっきん〉ってなんだろう?
 てきとうな返事をしながら、ぼくはごはんのせきにすわった。
 今日はト-ストとめだまやき。きつね色にやけたトーストにかじりついた。
 そういえば、だいぶ前に「八月のおわりくらいから仕事を始めるんだ」っていってたっけ。
 「はつしゅっきん」って、はたらき始める日のことか。なんの仕事だろ?
 ちょっと気になったけど、ジャステインのメンバーがでてくると、ぼくはそっちにくぎづけになった。
 今はジャステインの方が大事だ。
 ジャステインのメンバーはレッド、ブルー、グリーン、イエロー、ホワイトの五人組。
 地球をのっとろうとする悪のかいじん「ジャーシン」たちをたおし、まちの平和を守るんだ。
 むちゅうでテレビをみていたら、
 「あ、ドアノブったらまたテレビみながらごはん食べてる。いけないんだ」
 後ろからとつぜん声をかけられて、ぼくはかたがビクッとなった。
 ふりかえると、きがえ終わったお姉ちゃんがジロリとこちらをにらんでいた。
 ぼくの名前は「信じる」の「信」って書いて「のぶ」って読むんだけど、お姉ちゃんは意地悪だから「ドアノブ」ってよぶ。
 このよび方はすごくいやなんだけど、お姉ちゃんはぼくより四さいも年が上だし、おまけにでっかいから、こわくてやめてっていえないんだ。
 「もうみんなしたく終わってるよ。ねぼすけドアノブ。小学校三年生にもなって、まだヒーローものなんかみてるなんて、お子さまだね」
 お姉ちゃんはフンと鼻を鳴らした。
 「あら、お姉ちゃんきたの?」
 お姉ちゃんの声でふりむいたお母さんが、流しの水を止めてふりかえった。
 「お母さん。ノブ、またテレビみながらごはん食べてるよ?いいの?」
 「まあまあ、いいじゃない。あなただって、木曜日の夜はアイドルの歌番組みながらごはん食べてるでしょ?」
 「うーん…まあ」
 そういわれてお姉ちゃんはだまってしまった。
 ぼくの前ではえらそうでも、お姉ちゃんはお母さんには弱いんだ。
 「じゃあ、お母さん、これからお仕事にいってきます。おそくなるかもしれないから、その時は電話するね。さきちゃん。のぶのことドアノブっていわないんだよ」
 お母さんはさいごに軽く手をふると、それじゃね、といって家をでていってしまった。
 「はーい」
 形ばかりの返事をして、お姉ちゃんがくるりとこちらにむきなおった。
 「お母さんってほんと、ドアノブにあまいよね」
 お姉ちゃんもそういうと、さっさと子ども部屋にもどっていった。

 ⒉ こんなところにホワイトが?

 お母さんとお姉ちゃんがいってしまうと、いっきに部屋がシーンとした。
 ジャステインの番組の音だけがしていた。
 (早く食べ終わってちゃんとソファの方でテレビがみたい)
 そう思ってめだまやきをいっきに口にほうりこんだ。
 その時、チラッとだけお母さんのせきをみた。テーブルの上にピンクのスマホがおいてある。お母さんのだ。
 「電話するっていってたのに、これじゃできないじゃん」
 うっかりしてるなぁ。 
 さっきでていったばかりだから、今ならとどけられるかもしれない。
 でも、テレビではジャステインたちがたたかっている。
 番組のつづきと、お母さんのわすれもの。
 どっちを取るかすごーくなやんだ。
 けど、きっとこんな時、レッドなら「こまっている人がいたら、マゴコロをこめて助けよう」っていうはずだ。
 「お姉ちゃん、ちょっとお母さんにわすれものとどけにいってくる!」
 ぼくはひっさつわざ「三秒早きがえ」をくりだすと、スマホを手にお母さんの後を追いかけた。
 ぼくの家はだんちの三階。げんかんのとびらを開けるとすぐにかいだんがある。
 下をみると、もうお母さんはけっこう先にいってしまっていた。
 お母さんはすごく足が速い。うんどうしんけいがよくて、昔、たいそうのせんしゅだったって聞いたことがある。
 追いつけるかな?
 できるだけ急いでかいだんをかけおりた。
 一だんとばしも、できるところはやってみた。
 それでもかいだんをおりきった時には、お母さんはだんち前の公園をすぎて、曲がり角がたくさんある道の方を歩いていた。
 もうほとんど豆つぶくらいの大きさにしかみえない。
 追いつくのはむりかもしれない。
 そう思って一か八か、大きな声でお母さんをよんでみようと、思いきり息をすいこんだ時だった。
 向こうにいるお母さんがおかしな動きをし始めた。やたら首をふって、右と左をくりかえしみている。まるで人がいないかかくにんしているみたいだ。
 まわりにだれもいないと思ったのか、お母さんはキョロキョロするのをやめた。そして、左に曲がった。
 おかしいな。そっちはいきどまりしかないはずなのに。
 ふしぎに思っていたら、すごいことが起こった。

 ピカッ!ピカッ!ピカッ!
 
 カメラのフラッシュみたいなものが三回。
 お母さんがいきどまりに入って五秒もたたないうちに、道の間から光った。  
 「え?なになに?」
 光るのが終わった後、そこからでてきたのはお母さんじゃなかった。目をこすってもう一回みたけどやっぱりちがう。
 全身白ずくめの、顔の部分だけチョウの形の黒いサングラスをかけた人物。
 みおぼえがある。そうだ。あれはぼくがいつもみているヒーローせんたいジャステインの白たいいん、「ホワイト」だ。
 ホワイトがどうしてこんなところに?
 さっきまであの道にはお母さんしかいなかった。それなのに。
 びっくりしすぎて動けないでいると、ホワイトが白いマントで自分の体をクルリとつつんだ。
 そして、そのままフッと消えてしまった。
 「えー!?」
 どうなってるのかわからない。
 動けるようになってから、ぼくは走っていきどまりまでいってみた。
 やっぱりそこにはだれもいなかった。
 
 お母さんまでいなくなっていたんだ。

 
 3 しんじてくれない