たたかえ!ヒーローお母さん
⒈ 日曜日の朝
ジャガジャーン!ジャジャジャジャラーン!
この音がテレビから流れてきたら、ぼくはどんなにつかれてたってねむくたって、ベットからとび起きる。
日曜日の朝の始まりだ。
この音はぼくが大すきな番組「マゴコロせんたいジャステイン」のオープニングのイントロだ。
この後は「みんなの平和を守るため、真心こめてわれはゆく」とつづく。
歌の歌詞だって全部おぼえてるんだ。
「のぶー?起きたー?ジャステイン始まるよー」
台所の方からお母さんの声がする。
子ども部屋のふすまを開けたとたん、朝ごはんのいいにおいがただよってくる。
起きたとたん、ジャステイン。
そして、おいしそうな朝ごはん。
今日はとってもいい日な気がする。
なにかいいことが起こりそうだ。
お母さんは台所でまな板をあらっていた。
めずらしくこん色のスーツなんか着て、その上からエプロンをつけている。
「お母さん、今日はかっこうがちがうね」
お母さんのスーツすがたなんてはじめてみた。
「そう?今日お母さん、〈はつしゅっきん〉なの」
ふりかえったお母さんはいつもとちがって、しっかりおけしょうをしていた。
「へえ」
〈はつしゅっきん〉ってなんだろう?
てきとうな返事をしながら、ぼくはごはんのせきにすわった。
今日はト-ストとめだまやき。きつね色にやけたトーストにかじりついた。
そういえば、だいぶ前に「八月のおわりくらいから仕事を始めるんだ」っていってたっけ。
「はつしゅっきん」って、はたらき始める日のことか。なんの仕事だろ?
ちょっと気になったけど、ジャステインのメンバーがでてくると、ぼくはそっちにくぎづけになった。
今はジャステインの方が大事だ。
ジャステインのメンバーはレッド、ブルー、グリーン、イエロー、ホワイトの五人組。
地球をのっとろうとする悪のかいじん「ジャーシン」たちをたおし、まちの平和を守るんだ。
むちゅうでテレビをみていたら、
「あ、ドアノブったらまたテレビみながらごはん食べてる。いけないんだ」
後ろからとつぜん声をかけられて、ぼくはかたがビクッとなった。
ふりかえると、きがえ終わったお姉ちゃんがジロリとこちらをにらんでいた。
ぼくの名前は「信じる」の「信」って書いて「のぶ」って読むんだけど、お姉ちゃんは意地悪だから「ドアノブ」ってよぶ。
このよび方はすごくいやなんだけど、お姉ちゃんはぼくより四さいも年が上だし、おまけにでっかいから、こわくてやめてっていえないんだ。
「もうみんなしたく終わってるよ。ねぼすけドアノブ。小学校三年生にもなって、まだヒーローものなんかみてるなんて、お子さまだね」
お姉ちゃんはフンと鼻を鳴らした。
「あら、お姉ちゃんきたの?」
お姉ちゃんの声でふりむいたお母さんが、流しの水を止めてふりかえった。
「お母さん。ノブ、またテレビみながらごはん食べてるよ?いいの?」
「まあまあ、いいじゃない。あなただって、木曜日の夜はアイドルの歌番組みながらごはん食べてるでしょ?」
「うーん…まあ」
そういわれてお姉ちゃんはだまってしまった。
ぼくの前ではえらそうでも、お姉ちゃんはお母さんには弱いんだ。
「じゃあ、お母さん、これからお仕事にいってきます。おそくなるかもしれないから、その時は電話するね。さきちゃん。のぶのことドアノブっていわないんだよ」
お母さんはさいごに軽く手をふると、それじゃね、といって家をでていってしまった。
「はーい」
形ばかりの返事をして、お姉ちゃんがくるりとこちらにむきなおった。
「お母さんってほんと、ドアノブにあまいよね」
お姉ちゃんもそういうと、さっさと子ども部屋にもどっていった。
⒉ こんなところにホワイトが?
お母さんとお姉ちゃんがいってしまうと、いっきに部屋がシーンとした。
ジャステインの番組の音だけがしていた。
(早く食べ終わってちゃんとソファの方でテレビがみたい)
そう思ってめだまやきをいっきに口にほうりこんだ。
その時、チラッとだけお母さんのせきをみた。テーブルの上にピンクのスマホがおいてある。お母さんのだ。
「電話するっていってたのに、これじゃできないじゃん」
うっかりしてるなぁ。
さっきでていったばかりだから、今ならとどけられるかもしれない。
でも、テレビではジャステインたちがたたかっている。
番組のつづきと、お母さんのわすれもの。
どっちを取るかすごーくなやんだ。
けど、きっとこんな時、レッドなら「こまっている人がいたら、マゴコロをこめて助けよう」っていうはずだ。
「お姉ちゃん、ちょっとお母さんにわすれものとどけにいってくる!」
ぼくはひっさつわざ「三秒早きがえ」をくりだすと、スマホを手にお母さんの後を追いかけた。
ぼくの家はだんちの三階。げんかんのとびらを開けるとすぐにかいだんがある。
下をみると、もうお母さんはけっこう先にいってしまっていた。
お母さんはすごく足が速い。うんどうしんけいがよくて、昔、たいそうのせんしゅだったって聞いたことがある。
追いつけるかな?
できるだけ急いでかいだんをかけおりた。
一だんとばしも、できるところはやってみた。
それでもかいだんをおりきった時には、お母さんはだんち前の公園をすぎて、曲がり角がたくさんある道の方を歩いていた。
もうほとんど豆つぶくらいの大きさにしかみえない。
追いつくのはむりかもしれない。
そう思って一か八か、大きな声でお母さんをよんでみようと、思いきり息をすいこんだ時だった。
向こうにいるお母さんがおかしな動きをし始めた。やたら首をふって、右と左をくりかえしみている。まるで人がいないかかくにんしているみたいだ。
まわりにだれもいないと思ったのか、お母さんはキョロキョロするのをやめた。そして、左に曲がった。
おかしいな。そっちはいきどまりしかないはずなのに。
ふしぎに思っていたら、すごいことが起こった。
ピカッ!ピカッ!ピカッ!
カメラのフラッシュみたいなものが三回。
お母さんがいきどまりに入って五秒もたたないうちに、道の間から光った。
「え?なになに?」
光るのが終わった後、そこからでてきたのはお母さんじゃなかった。目をこすってもう一回みたけどやっぱりちがう。
全身白ずくめの、顔の部分だけチョウの形の黒いサングラスをかけた人物。
みおぼえがある。そうだ。あれはぼくがいつもみているヒーローせんたいジャステインの白たいいん、「ホワイト」だ。
ホワイトがどうしてこんなところに?
さっきまであの道にはお母さんしかいなかった。それなのに。
びっくりしすぎて動けないでいると、ホワイトが白いマントで自分の体をクルリとつつんだ。
そして、そのままフッと消えてしまった。
「えー!?」
どうなってるのかわからない。
動けるようになってから、ぼくは走っていきどまりまでいってみた。
やっぱりそこにはだれもいなかった。
お母さんまでいなくなっていたんだ。
3 しんじてくれない
ジャガジャーン!ジャジャジャジャラーン!
この音がテレビから流れてきたら、ぼくはどんなにつかれてたってねむくたって、ベットからとび起きる。
日曜日の朝の始まりだ。
この音はぼくが大すきな番組「マゴコロせんたいジャステイン」のオープニングのイントロだ。
この後は「みんなの平和を守るため、真心こめてわれはゆく」とつづく。
歌の歌詞だって全部おぼえてるんだ。
「のぶー?起きたー?ジャステイン始まるよー」
台所の方からお母さんの声がする。
子ども部屋のふすまを開けたとたん、朝ごはんのいいにおいがただよってくる。
起きたとたん、ジャステイン。
そして、おいしそうな朝ごはん。
今日はとってもいい日な気がする。
なにかいいことが起こりそうだ。
お母さんは台所でまな板をあらっていた。
めずらしくこん色のスーツなんか着て、その上からエプロンをつけている。
「お母さん、今日はかっこうがちがうね」
お母さんのスーツすがたなんてはじめてみた。
「そう?今日お母さん、〈はつしゅっきん〉なの」
ふりかえったお母さんはいつもとちがって、しっかりおけしょうをしていた。
「へえ」
〈はつしゅっきん〉ってなんだろう?
てきとうな返事をしながら、ぼくはごはんのせきにすわった。
今日はト-ストとめだまやき。きつね色にやけたトーストにかじりついた。
そういえば、だいぶ前に「八月のおわりくらいから仕事を始めるんだ」っていってたっけ。
「はつしゅっきん」って、はたらき始める日のことか。なんの仕事だろ?
ちょっと気になったけど、ジャステインのメンバーがでてくると、ぼくはそっちにくぎづけになった。
今はジャステインの方が大事だ。
ジャステインのメンバーはレッド、ブルー、グリーン、イエロー、ホワイトの五人組。
地球をのっとろうとする悪のかいじん「ジャーシン」たちをたおし、まちの平和を守るんだ。
むちゅうでテレビをみていたら、
「あ、ドアノブったらまたテレビみながらごはん食べてる。いけないんだ」
後ろからとつぜん声をかけられて、ぼくはかたがビクッとなった。
ふりかえると、きがえ終わったお姉ちゃんがジロリとこちらをにらんでいた。
ぼくの名前は「信じる」の「信」って書いて「のぶ」って読むんだけど、お姉ちゃんは意地悪だから「ドアノブ」ってよぶ。
このよび方はすごくいやなんだけど、お姉ちゃんはぼくより四さいも年が上だし、おまけにでっかいから、こわくてやめてっていえないんだ。
「もうみんなしたく終わってるよ。ねぼすけドアノブ。小学校三年生にもなって、まだヒーローものなんかみてるなんて、お子さまだね」
お姉ちゃんはフンと鼻を鳴らした。
「あら、お姉ちゃんきたの?」
お姉ちゃんの声でふりむいたお母さんが、流しの水を止めてふりかえった。
「お母さん。ノブ、またテレビみながらごはん食べてるよ?いいの?」
「まあまあ、いいじゃない。あなただって、木曜日の夜はアイドルの歌番組みながらごはん食べてるでしょ?」
「うーん…まあ」
そういわれてお姉ちゃんはだまってしまった。
ぼくの前ではえらそうでも、お姉ちゃんはお母さんには弱いんだ。
「じゃあ、お母さん、これからお仕事にいってきます。おそくなるかもしれないから、その時は電話するね。さきちゃん。のぶのことドアノブっていわないんだよ」
お母さんはさいごに軽く手をふると、それじゃね、といって家をでていってしまった。
「はーい」
形ばかりの返事をして、お姉ちゃんがくるりとこちらにむきなおった。
「お母さんってほんと、ドアノブにあまいよね」
お姉ちゃんもそういうと、さっさと子ども部屋にもどっていった。
⒉ こんなところにホワイトが?
お母さんとお姉ちゃんがいってしまうと、いっきに部屋がシーンとした。
ジャステインの番組の音だけがしていた。
(早く食べ終わってちゃんとソファの方でテレビがみたい)
そう思ってめだまやきをいっきに口にほうりこんだ。
その時、チラッとだけお母さんのせきをみた。テーブルの上にピンクのスマホがおいてある。お母さんのだ。
「電話するっていってたのに、これじゃできないじゃん」
うっかりしてるなぁ。
さっきでていったばかりだから、今ならとどけられるかもしれない。
でも、テレビではジャステインたちがたたかっている。
番組のつづきと、お母さんのわすれもの。
どっちを取るかすごーくなやんだ。
けど、きっとこんな時、レッドなら「こまっている人がいたら、マゴコロをこめて助けよう」っていうはずだ。
「お姉ちゃん、ちょっとお母さんにわすれものとどけにいってくる!」
ぼくはひっさつわざ「三秒早きがえ」をくりだすと、スマホを手にお母さんの後を追いかけた。
ぼくの家はだんちの三階。げんかんのとびらを開けるとすぐにかいだんがある。
下をみると、もうお母さんはけっこう先にいってしまっていた。
お母さんはすごく足が速い。うんどうしんけいがよくて、昔、たいそうのせんしゅだったって聞いたことがある。
追いつけるかな?
できるだけ急いでかいだんをかけおりた。
一だんとばしも、できるところはやってみた。
それでもかいだんをおりきった時には、お母さんはだんち前の公園をすぎて、曲がり角がたくさんある道の方を歩いていた。
もうほとんど豆つぶくらいの大きさにしかみえない。
追いつくのはむりかもしれない。
そう思って一か八か、大きな声でお母さんをよんでみようと、思いきり息をすいこんだ時だった。
向こうにいるお母さんがおかしな動きをし始めた。やたら首をふって、右と左をくりかえしみている。まるで人がいないかかくにんしているみたいだ。
まわりにだれもいないと思ったのか、お母さんはキョロキョロするのをやめた。そして、左に曲がった。
おかしいな。そっちはいきどまりしかないはずなのに。
ふしぎに思っていたら、すごいことが起こった。
ピカッ!ピカッ!ピカッ!
カメラのフラッシュみたいなものが三回。
お母さんがいきどまりに入って五秒もたたないうちに、道の間から光った。
「え?なになに?」
光るのが終わった後、そこからでてきたのはお母さんじゃなかった。目をこすってもう一回みたけどやっぱりちがう。
全身白ずくめの、顔の部分だけチョウの形の黒いサングラスをかけた人物。
みおぼえがある。そうだ。あれはぼくがいつもみているヒーローせんたいジャステインの白たいいん、「ホワイト」だ。
ホワイトがどうしてこんなところに?
さっきまであの道にはお母さんしかいなかった。それなのに。
びっくりしすぎて動けないでいると、ホワイトが白いマントで自分の体をクルリとつつんだ。
そして、そのままフッと消えてしまった。
「えー!?」
どうなってるのかわからない。
動けるようになってから、ぼくは走っていきどまりまでいってみた。
やっぱりそこにはだれもいなかった。
お母さんまでいなくなっていたんだ。
3 しんじてくれない
作品名:たたかえ!ヒーローお母さん 作家名:シーラカンス