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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Firehawks

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「ちょうどここで、ローラーが動く。でもひっかかるでしょ。だから、どっちかのローラーが割れてるか、壊れてる」
 ヨウが真面目な顔で語る様子を見ていた鎌池は、不意に笑い出した。ヨウは釣られてしばらく笑った後、半分真面目な顔に戻って言った。
「なに? ローラーが面白い?」
「いや、そんなに詳しいんやったら、作る側に回ったらよかったやん」
 鎌池が言うと、ヨウは首を横に振った。
「正業だとお金にならない。この手の仕事は、日陰者が一番儲かる」
 独特な言い回し。リンは『組織お抱えの武器商人』と言って、ヨウを紹介した。鎌池はそのバックグラウンドを探るつもりは全くなかったが、知り合って二週間になる中で、どうしても気にかかることがあった。
「こっちに来る前、得意先は固定やってんな?」
「そう、すぐにフルオートで撃ちまくる、危ない奴らだったよ」
 鎌池は、ヨウの返答を聞きながら改めて思った。日本語が達者すぎる。発音は多少怪しくても、今まで単語の意味を聞き返されたことがない。
「得意先の中に、日本人はおったか?」
 鎌池が言うと、MP5のハンドガードを分解し終えたヨウは、レシーバーのピンを叩いて抜きながらうなずいた。
「いるも何も、日本人の組織よ。荒っぽい奴らで警察にマークされてたから、ワタシもボーっとしてたら危なかったね」
 鎌池は立ち上がると、銃の部材を並べる棚の隣に置かれた段ボール箱から、新聞紙を取り出した。ヨウを紹介されてから、台湾の新聞を欠かさず読むようにしていた。鎌池は新聞のページを数日分たぐり、目当ての記事を見つけた。武装組織が内部分裂で崩壊、数人の死者が出た。民間人の巻き添えが出ていないから、扱いは小さい。しかし、組織の構成員と思しき顔写真が出ていて、その半分は日本人だった。
「こいつらか?」
 鎌池が新聞を差し出すと、ヨウは作業の手を止めて受け取りながら、苦笑いを浮かべた。
「おー、もう懐かしいね。そうか、死んだか」
 目を細めながら記事を読んでいたヨウは、写真を見て顔をしかめた。
「バイマオがいないね」
 鎌池は頭の中で日本語に変換した。白猫のことだ。
「そんな名前のやつがおるんか」
「そう、日本人の若い女。よく訓練されてた。あれが日本に逃げてきてたら、大変だね」
 ヨウはそう言うと、警察が本丸だけを取り逃がしたことを責めるように、呆れた表情で新聞を脇に退けてMP5の分解に戻った。
 
 
 トンカツをひと切れ食べたばかりのところで、鎌池から連絡が入った。深川は携帯電話を取り出すと、フラップを開いた。
「どいつもこいつも。揚げもん食うてるときは、勘弁してほしいわ」
 内容は、新しく台湾からやってきたヨウが先日まで武器を卸していた組織の話。その中身を読んでいた深川は、同じく手を止めている宮原に言った。
「食え」
 ヨウは、日本人を中心とする組織に西側の銃を手配していた。その組織が内部分裂して崩壊し、構成員はほとんどが死んだが、白猫と呼ばれていた日本人の女だけは新聞に載っていなかった。そしてヨウは『この女は訓練されてる。日本に来てたら大変』と言った。
 本当に来ていたら? 深川は猛スピードでトンカツを食べる宮原の方をちらりと見て、考えた。銃を安定して手配できる業者は、数えるほどもいない。だとしたら、川谷の組織が目立っている今、西側の銃を手に入れる手段として目に留まる可能性もある。もちろん、あくまで可能性だ。最悪、全てが妄想で終わる。しかし、今の時点で田中にリードを引っ張られては、何もできない。深川は、急いで食べ終えたことで汗をかいている宮原に言った。
「鎌池の件は、もうちょい引っ張りたいな。溝口をええ加減休ませたいから、代わりに監視つけるか?」
「五六式の客ですか。承知しました」
 宮原が立ち上がろうとしないことに気づいて、深川は笑った。
「はよ行け。おれは電車で戻るから気にすんな」
 宮原がチェイサーに乗って出て行き、ひとりになった深川は冷め始めたトンカツを食べながら頭の中だけ仕事に戻った。これを田中班長に報告したら、何と言うか。答えは分かりきっている。一挺でも挙げたい人間からすれば、空に飛びあがった風船を捕まえようとして走っているように見えるだろう。こちらだって、確証はない。しかし『白猫』がすでに訓練の完了した完成品だとしたら、それを日本に呼び込む人間は岩村以外に思いつかない。
 完全に冷え切った茶を飲み干して、深川は二人分の勘定を済ませて表に出た。カペラが駐車場でアイドリングしているのが見えて、苦笑いを浮かべた。運転席には南野、助手席には、相手に何を言ってやろうか常に構えているような表情の東山。助手席から降りると、東山は車の中でずっと練習していたように、澱みなく言った。
「深川、行きつけの店は知られてもええんか? おれらはずっと、チェイサーを尾行してた」
 深川は鼻で笑った。
「チェイサーを追わなくていいんですか?」
「お前に用がある。乗れ」
 東山が言い、運転席で南野が行動を促すように小さくうなずいた。深川は後部座席に乗り込むと、言った。
「署に戻りますか?」
「いや、戻らん。お前の倉庫に行く」
 南野は慌ててハンドルを切り、東山が言った方向へカペラを方向転換させた。でこぼこコンビ。南野は署に戻ると思っていたのだろう。深川は言った。
「うちらも、これでツーツーですか?」
「それはお前にかかってる。情報は逐一連携しろ。お前らが何をしてるんか、外からやと全く分からん」
 東山は助手席で前を向いたまま早口でまくし立てた。南野はバックミラー越しに深川の方を見ると、言った。
「近々に取引の予定はあるんですか」
 深川は首を横に振った。
「今のとこは静かや。コレクター相手に小銭稼いで、大物を取り逃がしたくないってのはあるね」
 深川が反応を待っていると、東山が体ごと振り返った。
「それをやめろって、田中班長に言われてんねん。その大物ってのは、当たりがついてんのか? 右か左か、どっちや?」
「右も左もない、精密機械みたいな連中です。事例を見てる限り、連中は西側の銃を使います。カラの取引情報を流したら、食いついてくる可能性があります」
 白猫だか知らないが、新しい人員を加えるつもりなら、尚更。深川はそれを言わずに留めて、顔をしかめている東山から言葉が飛び出すのを待った。
「面は取ってんのか? その精密機械みたいな連中ってのは、実在するんやな?」
「おそらくは」
 深川が濁すと、東山は関心を失くしたように前に向き直った。会話自体は終わっておらず、東山は前を向いたまま言った。
「まあ、頑張ってくれ。田中班長からの伝言やけどな。期限は年内や」
 深川はうなずいただけで言葉は発しなかったが、南野のハンドルさばきが異様に緊張していることに気づいて、言った。
「南野、心配ごとか?」
「いえ、問題ありません」
「問題あるから言うてるんやろが、酔わす気か」
作品名:Firehawks 作家名:オオサカタロウ