小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

Firehawks

INDEX|35ページ/38ページ|

次のページ前のページ
 

 つまり、あの銃器密売組織自体が警察に入り込まれていたのだ。佐藤は『ゴマシオの上司に、麻酔なしで骨を引き抜かれた』と武勇伝のように語るが、その上司すら警察の一員かもしれない。とにかく、もっと慎重になるべきだった。村岡は深呼吸をすると、頭の中に残る雑音を追い払った。制御できない感情は仕事の邪魔になる。引き金を引くときに余計な力がかかり、それは銃身のぶれに繋がる。そんな状態で撃ち出した弾はもっと悲惨で、百メートル先に届くころには完全に明後日の方向を向いている。頭ではそう分かっているが、ゴマシオは決して悪い奴じゃなかった。クラブで初めてその顔を見たときから、その印象は変わっていない。
 そして、北井夫婦の娘がゴマシオと接点を保っている理由は、もっと分からない。警察官だったからといって、事件が起きた後も被害者をずっと支えるというのは、自分の人生のほとんどを犠牲にするのと同じだ。信頼関係があるのなら、それは微笑ましいことだが。そして、そうさせるということは、彩菜は相当性格がいいのだろう。北井夫婦を殺す一週間前、下見をしていたときに目が合ったのを、今でも覚えている。こちらが煙草の煙をぷかぷかと吐き出すと、窓枠に手をかけたまま笑っていた。鎌池と北井。二人とも、優しい人間なのは間違いない。だとしたら、こちらも険しい顔をする必要はない。
 どうせ殺されるなら、最後に自分を見下ろす顔は穏やかな方がいいだろう。
 
 
 彩菜はドアグリップを掴み、トンネルの中に入って景色が真っ暗に変わったとき、思わず瞬きをした。
「ちょっと、飛ばしすぎやしません?」
「彩菜、今日は急いだほうがいい」
 鎌池はそう言うと、頭を動かすことなくバックミラーに目線を向けた。かなり長い車間を保っているとはいえ、インプレッサは山道をずっと追ってきている。やや上向きのヘッドライトが点いているから、運転手の顔は窺えない。問題は、インプレッサが尾行の段階を終えて、本格的に自分たちを追跡し始めているということだ。馬力があるタイプだから、アクセルをひと踏みするだけで並べるだろう。トンネルを抜けて下りになったとしても、動力性能では勝ち目がない。鎌池はトンネルの出口に辿り着き、ヘッドライトを消してエンジンブレーキをかけた。ここからは長い下り坂で、二車線のなだらかな道が続く。明暗差で景色が真っ白に光って目が慣れる直前、鎌池はドアミラーにもう一台の車が映ったことに気づいた。それは一世代前のフォレスターで、トンネルの出口横にある待避所から猛然と加速すると。鎌池が運転するオデッセイと後続のインプレッサの間に割り込んだ。車体を前後に跳ねさせながら加速するフォレスターがバックミラーに大写しになり、本当の追手だと気づいた鎌池は追い越し車線に車体を振った。フォレスターは対向車線側まで飛び出すと、オデッセイの後部めがけて左に進路変更した。
 こちらのバランスを崩させるつもりだ。鎌池がフォレスターの目的を悟って左に大きくハンドルを切ったとき、間にインプレッサが割り込んでフォレスターの高い足元を掬った。フォレスターは振り子のように右側にバランスを崩すと、対向車線側のガードレールを突き破って木に巻き付くように激突した。鎌池は急ブレーキを踏んだが雨で車体の制御が利かず、山側の側溝にハンドルを取られて標識をなぎ倒しながらガードレールに車体をぶつけ、やすりがけするように火花を散らしながら停車させた。目の前で車体を百八十度反転させて停車したインプレッサのヘッドライトが運転席を照らし、鎌池は彩菜に叫んだ。
「伏せろ!」
 彩菜が頭を手で包んで身を低くしたことを確認すると、鎌池は姿勢を低く保ちながら外に出た。半開きになったドアの隙間からブローニングハイパワーを握る右手を見て、顔を上げた。
「宮原?」
 宮原の後方を警戒しながら、モスバーグM500を両手で持つ溝口が言った。
「こっちに移して、早く」
 最初は、機密情報を知る鎌池の監視だった。目的が保護に変わったのは、彩菜との接点が続いていることを知ったからだった。それからは、鎌池と彩菜が会うタイミングで、必ず宮原と現場に出るようにしていた。いつか、こういうことが起きると分かっていたからだ。溝口はフォレスターが煙を上げる事故現場に目を向けながら、自分が佐藤を追い詰めたときと状況が似ていると考えたが、すぐにその考えを打ち消した。あのときは、チェーン脱着所を見つけたのは自分だった。しかし、今回は違う。ここを狩場に選んだのはフォレスターの方だ。つまりどこかに、仲間が潜んでいる可能性が高い。溝口は首をぐるりと回した。五十メートルほど道路を下った先の直線の終点に、廃墟になったドライブインが建っていることに気づき、二階に空いた銃眼のような二つの窓を見るのと同時に叫んだ。
「伏せて!」
 宮原が鎌池を突き飛ばし、溝口が頭を下げた真上を銃弾が掠め、オデッセイのフロントウィンドウを貫通した。彩菜が悲鳴を上げ、溝口は宮原に言った。
「ライフル弾」
 宮原がうなずいたとき、溝口は鎌池に向かって、ホルスターから抜いた拳銃を投げた。
「使って。七発、ラウンドノーズ」
 鎌池は、自分が受け取った拳銃が、北井家に納品するはずだったコルトコンバットコマンダーだと気づいて、目を丸くした。
「それは、押収させるにはヤバすぎるでしょ」
 溝口はそう言うと、向かって右側の窓に人影が移動しないか確認しながら、モスバーグの薬室を開いて転がり出たバックショット二発を手に持つと、シェルキャリアに入ったスラッグを一発引き抜いて薬室に装填し、手の中で余った二発をチューブに装填し直した。
「宮原。私が一発、中に食らわせるから。その後、両方の窓に向かって等間隔で撃って」
「承知しました。溝口さんはどうするんです?」
 ハイパワーを構えた宮原が言うと、溝口は呟くように言った。
「アホ面を見に行く」
 言い終わるのと同時に体を起こすと、溝口はインプレッサを遮蔽物にしながら進み、窓に向かって一発を撃ち込んだ。地鳴りのような銃声が響いてスラッグ弾が窓の中へ吸い込まれ、宮原はハイパワーを窓に向けると、頭を出させないように撃ち込み始めた。溝口は次の弾を装填するのと同時に走り出し、ガードレールを飛び越えて森の中へ入り込んだ。  
 鎌池はコンバットコマンダーの薬室に弾が装填されていることを確認すると、彩菜に言った。
「発煙筒取ってくれ」
 彩菜が震える手で発煙筒をラックから外して差し出すと、鎌池はそれを受け取ってポケットに押し込んだ。建物の中へ投げれば煙幕代わりになるが、まずは近づかなければならない。鎌池は彩菜が見ていることに気づき、口角を上げて言った。
「何があっても、頭を上げたらあかんで」
作品名:Firehawks 作家名:オオサカタロウ