小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

Firehawks

INDEX|30ページ/38ページ|

次のページ前のページ
 

「商売は上手くいってて、顧客も増えてた。おそらく、目立ち過ぎたんやと思う。おれは警察に少しずつ囲まれてた」
 鴨山は、自分が絶対に受け入れてこなかった後悔を頭に呼び起こした。一度栓が抜ければ頭の中を支配するに違いないから、ずっと力ずくで押さえ込んできたこと。
「当時、よく飲み屋で話す、北井って奴がおった。家庭のことでずっと悩んでたわ。建築の勉強ばっかしてきたから、自分以外の人間を説得する言葉が見つからんって、いつも言うててな。こいつが一挺買ってからすぐに、また欲しいって言うてきたんや。時間空いてないからやめとけって、おれは止めたんやけど」
 白野は、その結末までを見越したように、ゆっくりとうなずいた。
「結局、取引したんですか」
「最終的には、してない。警察があちこち張ってて、初めて気づいたんや。おれは捕まる一歩手前まで来てるって」
 鴨山は椅子の背もたれに預けた背中を少し捩って、姿勢を変えた。
「おれは気づいて、逃げた。警察は、北井との取引に網を張ってたんやと思う。同時に、おれらが取引してた他の顧客は、警察との接点を切りたがってた。銃が押収されたら自分にも飛び火するって、考えてたんやと思う。まあ実際、飛び火はしてたやろうけど」
 ずっと、誰かに話したかったこと。それは、嘘を一旦脇へ退けないとたどり着けない場所にあって、いびつな形をした後悔の念だった。鴨山は白野の目をまっすぐ見ることなく、テーブルの上に置かれたコップに目を向けたまま続けた。
「その他の顧客ってのが、とことん容赦の無い組織でな。警察が総出で見張ってる中で、北井と奥さんを殺して銃を回収した。とんでもない奴らや。子供はたまたま家におらんで、無事やったらしいけど」
 白野は受け取った言葉を体の中に収めきれないように、小さく息をついた。鴨山は続けた。
「二挺目は、断るべきやった。色んな人間に銃を売ってきたけど、北井はほんまに普通のサラリーマンやった」
 白野は廃棄ポーチを握りしめていた手から力を抜き、先端が白くなった爪を見下ろしながら、言った。
「そんな普通やったのに、銃を買ったりするって。原因は、家庭のストレスなんでしょうか」
 鴨山は首を横に振った。
「欲しい物があって、何か理由を探してた。それだけやで。仮に、父親が家で銃振り回してて自分らのせいにされたら、家族からしたら辛すぎるやろ」
 白野は苦笑いを浮かべた。鴨山は結論に達したように咳ばらいをすると、続けた。
「おれがどんな人間かは分かったやろ? ここからが大事なんやけどな。その写真を送ってきた奴が誰かは置いといて、先週ニュースで流れた発砲事件、覚えてる?」
 白野がうなずくと、鴨山は視線を上げた。
「あの事件で使われた銃は、二十年前におれが北井に納品しようとしてたやつやねん。巡り巡って使われたから、昔の仲間からも連絡が来た。最初は気にしてなかったんやけど、やたらしつこいから心配になってきてる」
 口調の険しさに、白野は少しだけ身を引いた。
「鴨山さんが心配してるのは、その当時の組織が来るかもってことですか?」
 鴨山は首を傾げた。そこは、本当に分からない。村岡や佐藤のような人間が長生きするとは思えないが、岩村と組織自体が生き残っていれば、同じニュースを見ている可能性がある。
「分からん。ひとりも残ってないかもしれん」
 白野が安心したように口角を上げたとき、鴨山は首を横に振った。
「でも、もしかしたら近くに来てるかもしれん。やから白野さんは、今日以降ここに来たらあかん」
「来ますよ?」
 白野が歯を見せて笑うと、鴨山は言い聞かせるように首を強く横に振った。
「あかん。白野さん、君はな……、絶対に巻き込まれたらあかん。家族にも、次はこっちが向かうから時間を空けてくれって、連絡した」
 自分が訊きたかったことを先回りされて、白野は目を伏せた。
「せっかく再会できたのに」
「自分が招いたことで申し訳ないけどね。結局逃げられへんのよ。おれから動くよりは、ここで待つ方がいい。玄関に封筒入れるぐらいやから」
 鴨山が椅子に座ると、その遠慮なく盛り上がった腹に視線を向けながら、白野は言った。
「次にわたしが来るのは、一週間後です。それまでに、解決してください」
 白野のきっぱりした口調に、鴨山は思わず姿勢を正した。
「どんな事情があっても、私は自分の仕事をします」
 そう白野が続けたとき、鴨山の携帯電話が鳴った。テレビも合図を受けたように番組が切り替わり、競馬中継が始まった。テーブルの上で鳴り続ける携帯電話を見ながら、鴨山は言った。
「さっき言うてた、昔の仲間からやわ。やりとり、聞いてくか? 考え変わるかもしれんで」
 バッグに廃棄ポーチをしまいこんでいた白野は、そのまま立ち上がる代わりに腰を下ろした。鴨山は、予想と反対の方向に動いた白野の顔を見て苦笑いを浮かべると、画面に大きく『川谷』と表示されている携帯電話の通話ボタンを押した。
「進展なんかないぞー。思い出したんやけど、今って工場になってるよな? 当時の警察が見逃してて、そこの従業員が今になって見つけたとか、ないか? おれは、結構見つかりにくいとこに隠したけど」
 鴨山が先手を打つように言うと、川谷は大きくため息をついた。
「見つけて、よっしゃヤクザの車撃つぞーって、なりますか? 第一、カラやったでしょ。弾は全部、押収されてるでしょうし」
 可能性はゼロではないが、自動販売機が釣り銭の金額を間違えるぐらいに低い。持ち弾が早々と尽きたように鴨山が唸ると、川谷は続けた。
「駅で警察に囲まれかけて、逃げたって言うてたじゃないですか。ほんで、工作所に戻ったんですよね? そこを見られてたってことはないですか?」
「中に入って、鞄の中の銃を隠して外に出てきただけやぞ。見られてたとして、銃を隠したって分からんやろ」
 鴨山は弾を撃ち返すだけの会話に疲れて、小さく息をついた。質問されるのはうんざりだ。ちょうど会話に隙間が生まれたところで、鴨山は言った。
「田中はだいぶ詰めてきてんのか?」
「探ってるというよりは、ほんまに分かってないような感じはしますね。あの人は警察やったのに、なんであんな必死になるんでしょう」
 川谷が言ったとき、鴨山はふと気づいた。北井が二挺目を突然欲しがったのはなぜだろうと、ずっと思っていた。ハマったというだけでサラリーマンが次々に買えるような値段でもないし、何より違法だ。しかし、あの取引自体を田中が仕組んでいたとすれば、急ぐ理由は納得できる。
「北井が警察に尻尾を掴まれてたんかもな。それをやってたんが、田中なんちゃうか? でも、民間人使って囮捜査みたいな、めちゃくちゃはできんやろ。あいつの泣き所はそこかもな」
 鴨山が言うと、川谷は数十秒沈黙した後、小さく唸った。ちょうど白野の携帯電話にメッセージが届いて小さなベルの音が鳴ったとき、川谷はようやく口を開いた。
「あー、なるほど……。田中がそもそものきっかけを作ったってことですか。てか、鴨山さんのとこは、何もないですか? 部屋まで来て、ドアガンガンやられたりとか」
作品名:Firehawks 作家名:オオサカタロウ