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オオサカタロウ
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novelistID. 20912
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Firehawks

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 これは、いわゆるガンマニアのコレクション用ではない。予備の弾倉が用意されるということは、実戦で使いたがっている人間がいるということだ。川谷の『工場』は役割分担が複雑で、バラバラに運ばれて来る部品を誰が組み立てているのか不明だった。ひとつひとつはガラクタの部品を一挺の銃に仕上げる『職人』がいて、そこを突かない限りはどんな手を使ってでも銃は輸入され続ける。
「AKは人気がある」
 リンが流ちょうな日本語で話し、深川は顔を離した。
「なんで? 誰に?」
 再び日本語を忘れたように押し黙ったリンの目をじっと見据えたまま、深川は続けた。 
「おれが次に何聞くか、予想もつかんのかい。五六式が四挺は、まあええとして。弾倉は十二本、実包が四百発。これは何や?」
 そもそも、この手の商人が素人相手に弾を売ることはない。深川は川谷の方を向いた。
「ひと言、話通してくれるだけでよかったんやけどな」
「まずは顔を売れや、誰やねんお前。順番があるやろ。見たこともない顔が何を言うてんねん」
 川谷が早口で言い、チンとショウヘイが顔色を失って目を伏せた。深川は二人の顔を目で追いながら、言った。
「今の分かった? 日本語分からん振りしてはるけど」
 二人が黙ったまま切り抜けようとしていると、溝口がスカイラインのトランクを開けて、深川の方を向いた。川谷が顔色を微かに変えたことに気づいて、深川は笑った。この手の人間は特定の動作を怖がるから、何でメシを食っているかすぐに分かる。工場を仕切るのが川谷。リンが職人、チンとショウヘイは雑用。そして、内地での『営業活動』が鴨山。
「一見さんお断りは、ごもっともや。おれらも順番間違えたな」
 深川は溝口の方を向いてそう言うと、リンの方に向き直った。
「リンさん頼み事。大陸側からひとり連れてきたり、できる?」
「増員?」
 勝手に答えたリンを、川谷は目で制した。しかし、このスーツ姿の男から発せられる冷気は今までに遭遇したことのない独特なもので、リンの態度は明らかに傾いていた。スカイラインのトランクを手で支えている若い女も、ゆっくりと瞬きを繰り返しながら成り行きを見守っているようで、その立ち姿には全く隙がない。
 深川は唇を結んで小さくうなずき、伊達眼鏡をかけた。
「そう、四人要るんやろ?」
「今、四人いる。必要ない」
 リンが言ったとき、深川は上着のポケットから耳栓を取り出して両耳にはめ込むと、溝口の方を向いて短く口笛を吹いた。トランクからモスバーグM590A1を引っ張り出して歩いてきた溝口は、同じように耳栓を両耳に入れた。深川はモスバーグを溝口の手から取り上げると、チンの胸に銃口を向けて引き金を引いた。部屋の中がフラッシュを焚いたように光り、即死したチンは椅子ごと仰向けに倒れた。三人に減ったから、ひとり増員する必要ができた。目の前で起きたことをそう解釈してショウヘイが顔を上げたとき、深川は先台を引いて新しい弾を装填すると、機械のように水平に銃口を振ってショウヘイの胸を撃った。椅子は倒れず、深川は代わりに蹴ってショウヘイの死体を仰向けに倒すと、耳栓を両耳から抜き、凍り付いたように椅子へくぎ付けになった川谷の目をまっすぐ見据えて、言った。
「おれの顔に見覚えはできたな?」
 深川はモスバーグを溝口へ返し、溝口は残りの弾を抜いてポケットに入れると、薬室を開いた状態で川谷に掲げた。
「アメリカ製です」
 深川は細い煙を上げるモスバーグの薬室に目を向けながら、言った。
「これからは、うちの商品も扱ってもらうで。二人増員する。ひとりはうちの人間、もうひとりはリンさん頼むわ」
 顔色はまだ白いままだが、川谷とリンの頭の中はすでに切り替わっているように見える。深川はマイルドセブンの箱をポケットから取り出し、折れ曲がった一本をくわえた。最終的には、全員を銃器犯罪対策班に差し出すことになる。
 尻尾を出すまで横っ腹を蹴り上げる仕事。銃器犯罪対策班は、正規の職務とそれの裏返しになった職務の二人三脚で歩まないと、機能しない。深川と溝口はその中でも特に荒事を担当する、機動偵察組と呼ばれる四人組のチームに属する。深川がリーダー、溝口が右腕、残りの二人はSATでの実戦経験を持つ宮原と鎌池で、年齢は共に二十七歳。四人とも田中班長が長いリードをつけて遊ばせている猟犬で、署には自分のデスクすらない。全員が人を殺した経験を持つことから、身内からは『機動銃殺隊』と呼ばれている。
 機動銃殺隊を構成した田中班長は叩き上げの四十五歳で、歩くアキレス腱辞典。役職は課長補佐で表には積極的に顔を出さないが、関係者の痛い部分を知り尽くしている。誰に女装癖があって、誰が未成年に手を出して、誰と誰が不倫関係にあるか。そういった弱みをあちこちから吸い上げているから、表向きはどれだけ肩を組んで一緒に歌い、倒れるまで飲んだくれたとしても、その目は常に相手の隙を探して動き回っている。本人にも予算の私的流用という黒い噂があるが、機動銃殺隊がもたらす検挙率の高さが盾になって、今のところは見逃されていた。
 機動銃殺隊を構成する四人の共通点は、『見込みのある危険人物』という矛盾した性質。元々外国人犯罪対策班にいた深川と溝口は、その強引な捜査方法が問題視されていて、田中班長以外は誰も引き取ろうとせず、結局同時に班を移ることになった。それは宮原と鎌池も同様で、二人は同じ立てこもり事件で、制圧の際にほとんど無抵抗の犯人を射殺した。
 問題は、この『機動銃殺隊』自体が田中のアキレス腱のひとつだということ。高い検挙率を保っているのは、この四人が署に近づくことなくありとあらゆる荒事に首を突っ込んでいるからだが、同時にその『秘訣』を周りから探られている。そしてその秘訣とは、犯罪者顔負けの冷酷さで引き金を引けるということだ。
 深川は川谷の電話番号を控えて、リンの方を向いた。
「このまま待っといてくれるか。うちの増員を連れてくる」
 宮原と鎌池なら、鎌池が適任だ。この手のことに関しては宮原の方が優秀だが、深川と並ぶ長身で威圧感があり、何より所作が硬すぎる。溝口が打ち合わせ通りに鎌池に電話をかけて、十分も経たない内にCBR600のエンジン音が遠くで甲高く唸った。
 鎌池は身長百七十センチ強で細身、坊主頭の一部には大きな切り傷がある。フルフェイスのヘルメットを被った鎌池は黒塗りのCBRをスカイラインの横に寄せて、エンジンを止めるのと同時にスタンドを立てた。
「こんばんは」
 溝口は、ヘルメットを脱いだ鎌池に言った。鎌池の目つきに鋭さはなく、どちらかというと人懐っこさを覚える人間の方が多い。しかし実際には、四人の中で最も気が短く、その思考回路は法律の反対側にかなり寄っている。鎌池は椅子ごと仰向けに倒れた死体を眺めて、溝口が両手で持つモスバーグに目を向けた。
「物騒っすねえ」
「ほな、頼むぞ」
 深川はスカイラインの鍵を手渡した。鎌池は目礼して受け取り、川谷の顔をじっと見据えた。
「これから、移動は全部この車でやる。運転はおれ。お前は助手席」
 川谷が段取りを飲み込む代わりに喉を鳴らしたとき、鎌池は空いている手で平手打ちを食らわせた。
「分かったんか? なんか言え」
作品名:Firehawks 作家名:オオサカタロウ