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オオサカタロウ
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novelistID. 20912
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Firehawks

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 鎌池は、心臓の鼓動が跳ね上がる中、客を見回した。村岡が北井家を監視していた。同時に、五六式の男や南野がどうなったか、その結末を思い出した。あの組織は邪魔を許さないだけでなく、自分に繋がりかねない糸は全て断ち切る。そして、それをやってのける人員も、装備も持っている。
 鎌池はハンバーガーと飲み物を二人分注文し、トレイを受け取るなり、二階席に上がるよう彩菜の背中を押した。がらんとしたトイレ側の席を選び、溝口に電話をかけた。
「北井彩菜は外にいます。今、保護しました。話を聞いてると、一週間前に怪しい人を見たと。特徴からすると村岡で、北井家を公園から監視してたと思われます」
 鎌池が言い終えると、返事をずっと考えていたように溝口は抑えた声で言った。
「どっか店の中に入って、待機して。その子、絶対に解放せんようにしてよ」
「今、駅側のマクドの中です。このまま待機します」
「外におったんやね。部屋の電気は点いてるけど人影がなかったんは、そういうことね」
「本人曰く、鍵閉めて電気点けといたら、外おってもバレへんのですって。とんだ不良ですわ」
 鎌池は彩菜の視線が突き刺さるのを感じながら、言った。
「そのまま待機でお願いね」
 溝口が念を押し、鎌池は店の正確な住所を伝えてから電話を切った。その様子を眺めていた彩菜は、ようやくジュースをひと口飲むと言った。
「やっと、警察官って感じした」
「さっきから、警察やって言うてるやろ」
 まだ、何かできることがあるはずだ。鎌池は、周りの客に弁解するような表情でジュースを飲む彩菜の顔を見ながら、考えた。監視班に伝えても説明だけで時間が過ぎるし、外に出るリスクの方が高い。ここから動かずにできることと言えば、電話ぐらい。鎌池はそこまで考えたとき、もう一台の携帯電話を取り出した。『ゴマシオ』の携帯電話を使えば、窓口になっている佐藤を呼び出すことができる。番号を鳴らすと、すぐに通話が始まった。
「あーもしもし、ゴマシオです」
「お久しぶりです。どうされましたか?」
 佐藤が言い、鎌池は相槌の中で考えた適当な話を、そのまま口に出した。
「近々に用立てできるのが、45口径だけになりそうでして。9ミリが品薄なんです」
「あはは、どっちでも構いませんよ」
 佐藤がそう言ったとき、エンジン音のような雑音の中に、ほとんど聞こえないぐらいの小ささでギターの音が混ざった。『ありがとうございましたー、今のは新曲です』という掠れた声と、まばらな歓声。ついさっき、アコースティックギターを持っていた若い男。
「とりあえず、連絡だけと思いまして。では」
 鎌池は電話を切るなり、溝口にメールを送った。
『佐藤が駅前にいます。車の中です』
 
 鎌池から届いたメールを見て、溝口は北井家の周囲を見回した。車は一台もおらず、通行人が数人程度。運動公園の駐車場にはボンゴワゴンが一台だけ。今動かせるとしたら緊急配備中の自ら隊で、駅側に二台が待機している。一分が経過したとき、黒のアリストが北井家の前を通っていった。
 溝口は、自分が使える道具の位置関係を頭に呼び起こした。ここから二百メートルの位置に混雑時以外はほとんど使われない第二駐車場があって、放置自動車の陰になる位置に黒のクラウンアスリートVを置いてある。辿り着いてアクセルを踏み込めるようになるまでは約一分半。トランクには、M870ウィットネスプロテクションとUSP45が入っている。こちらはいつでも動けるし、それは自分だけで構わない。
 溝口は宮原にメールを送った。
『介入して』
 
 宮原はメールを見て、パーカーのフードを目深にかぶり直すと、立ち飲み屋から出てコンビニで栄養ドリンクを買ったばかりの鴨山に近づき、肩を力任せにぶつけた。鴨山はバランスを崩してロッカーに頭をぶつけ、たった今突き飛ばしてきた長身の男に後ろから怒鳴った。
「こらあ、まっすぐ歩けボケ!」
 鴨山はそう言ったとき、自分の声に驚いてこちらを見た数人以外に、はるか遠くに立っている男までが注目していることに気づいた。目を逸らせたり、明らかに反対方向に歩き出す男もいる。警察に監視されている。そう気づいた鴨山は、駅をまっすぐ早足で抜けて、タクシーに乗り込んだ。
 
 溝口は、宮原からの『鴨山は逃げました。自分も気づかれたんで、これから説教されます』というメールを見て、口角を上げた。田中には残念だが、こんな危険な状態で取引は成立しない。この近辺に、佐藤だけでなく村岡もいる可能性が高い。取引の証拠を消すのが目的なら、北井春樹が買った拳銃自体を始末しようとするはずだ。
 目の前には、その舞台となるはずの北井家が建っている。パトカーを呼び寄せなければならない。携帯電話を握りしめる手をこじ開けるように開き、溝口は深呼吸した。
 どうしても、手が動かない。
 宮原が鴨山を追い払っても、川谷が残っている限り、北井との取引は終わらない。田中はどんな手を使ってでも、この仕事を終わらせるはずだ。そこまで考えたとき、溝口は思わず歯を食いしばった。深川を殺した代償は払ってもらう。そっちが自分の都合を押し通すなら、こっちも同じことをするだけだ。溝口は指をゆっくりと閉じて、拳を固めた。ランニング中の男子中学生が一周してきて、今度は足を止めた。
「あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫、ありがと」
 溝口はかろうじて口角を上げると、ベンチから立ち上がった。鎌池の連絡から五分が経った。おそらく、もう後戻りはできない。佐藤は車に乗っているらしい。それが事実なら、さっき通ったアリストの運転手と見て、間違いないだろう。だとしたら、その仕事が行われるのは今だ。監視班が目を光らせていれば本来は近づけないはずだが、肝心なときにパチンコで暇つぶしをするような連中だから、救いようがない。そして、機動銃殺隊が解散した場合、それが新しい『普通』になってしまう。回避する方法はひとつ。この案件を潰して、田中を蹴り落とすことだ。そのためには、ひとつだけ目を瞑らないといけないことがある。
 今から、北井春樹は命を落とす。本来なら、望むことすら許されない。でも、もう舵を切ってしまった。その判断を下したのは私だから、いつか自分の命で、このツケを払う番が来る。
 覚悟を決めて深呼吸をしたとき、今までずっと電気が点きっぱなしだった二階の部屋で、カーテンが閉まった。溝口は耳元でピストルを鳴らされたように、走り出した。
 部屋の中にずっと、誰かがいた。
 
「調子悪いん?」
 啓子は、彩菜の部屋をノックした。電気が点いていても静かなときは、大抵外に出ている。お昼に鍵が開いていることに気づいたとき、外に出ていると確信した。それが分からなくなったのは、一時間ほど前。部屋の中で音楽が流れていることに気づいたときだった。かなり音量を下げていて、微かにしか聞こえない。でも、さすがに音楽をかけたまま外には出たことはない。だから中にいるのだろうと思って呼びかけてみたが、それにも応じなかった。もちろん、いつもと違う行動を取る理由は、痛いほど分かる。
作品名:Firehawks 作家名:オオサカタロウ