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オオサカタロウ
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novelistID. 20912
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Firehawks

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 深川を殺したのは、東山か田中。正直、引き金を引いたのがどちらでも構わない。
 誰も投げられないように、地面の石を拾う仕事。それが原理原則なのは、分かっている。そして、単に銃をコレクションする連中ではなく、それを道具として実際に使う連中が野放しになっているということも、痛いほど理解している。手が届きそうなところまで来ていたから、手元には機動銃殺隊として関わった人間全員の連絡先が残った。倉庫も三月末を迎えるまでは残り続けるし、銃と弾もある。何より鴨山と川谷を殺し損ねたことで、鎌池は佐藤との接点を保ち続けている。
 だから、後を追うチャンスはまだ残っている。小さく息をつき、溝口は目線を上げた。ランニング中の男子中学生と目が合って会釈すると、溝口は駐車場越しに見える北井家に視線を向けた。このベンチに座ったのが一時間ほど前だから、もう結構な時間が経っている。誰かが部屋の中を歩いてうろつけば、それだけで影が伸びたりして、分かるはずだ。
 今のところ、二階の部屋だけ人影が一切動かない。
 
 鎌池は立ち並ぶ居酒屋の看板を見上げながら、駅側に一旦抜けた。ストリートミュージシャンの前に人が集まり始めていて、アコースティックギターを持った若い男がスタンドを立てたり、ファンと思しき女の子に会釈したり忙しくしている。飲み屋も盛況で、土曜日だから私服の客が多い。鎌池は流れが読めない人だかりに巻き込まれないよう、煙草屋の前で足を止めた。名目上は休暇と言われているが、報告の必要がないだけで『仕事』と何も変わらない。しかし、深川が死んだことで周りの景色は一変した。
 溝口は、東山と田中が仕組んだと考えている。そして、まだ終わりではないということも。厳密に言えば、川谷の銃器密売組織は活動を続けている。リンとヨウを殺したことで銃を整備できる人間はいなくなったが、顔だけが生きている状態だ。窓口の携帯電話も、まだ機能している。なんにせよ、このまま終わらせるのは不本意だ。鎌池は、このストレスを少しでも中和するために煙草を買い足すべきか迷って顔を上げ、さっき通り過ぎていったカップルが引き返して、ちょうど目の前を通ったことに気づいた。女の方はご機嫌斜め。男は機嫌の取り方を知らないように見える。
「いや、ここまで来て帰るん?」
「どこまで来たつもりなんよ、知らんわそっちの都合なんか」
 揚げ足を取るような抵抗の言葉に、鎌池は表情に出さないよう気をつけながら笑った。同時にその口調の幼さから、女の方は高校生ですらないことに気づいた。
「おかき、それはノリ悪いって」
 男が言ったとき、鎌池は振り返って女の背中に呼びかけた。
「北井彩菜か?」
 先生に見つかったように肩をすくめた彩菜は、衝撃をできるだけ緩和するようにゆっくり振り返った。鎌池は、自分の坊主頭から型が崩れたフライトジャケット、半世紀雨ざらしになったように色が落ちたジーンズと順番に彩菜の目が向いていくのを見ていたが、隣で機嫌を取ろうとしていた高校生の男がいつまでも立っていることに気づいて、言った。
「消えろ」
「は?」
 三吉が間合いを詰めたとき、鎌池は平手打ちを放った。タイヤが破裂したような音が響き渡り、三吉は居酒屋の看板に掴まることでかろうじて転倒を免れた。何人かが視線を寄越したが、鎌池は構うことなく機械のように同じ口調で言った。
「消えろ」
 彩菜は、三吉が『消える』許可を求めるように自分の方を見ていることに気づいて、しかめ面のままうなずいた。
「どうぞ……」
 ずっと隣にいた気配が消えて体が軽くなったように感じたが、彩菜は目の前に立つ坊主頭の男に向き直った。
「ほな、叫びますね」
「やめとけ。警察や、ちょっと話がある」
 鎌池は、手の平にほとんど収まる警察手帳を見せた。彩菜は足の力が半分以上どこかへ行ってしまったように、電柱に片手をついた。
「嫌……、逮捕せんって言うたやん。なんで?」
「逮捕はせんけど」
 鎌池はそう言うと、路地の方を向き、拳を固めた。彩菜はそれが飛んでくることを想像したように、自分から路地へ足を踏み入れた。鎌池は人の話し声がほとんど聞こえなくなったところで、彩菜に言った。
「おれは、鎌池。逮捕ってのは、なんか心配ごとがあるんか?」
「お父さんが警察とトラブルになってる」
「どっちが悪いか分からんみたいな言い方すな。まあ、当たってるか」
 鎌池はそう言うと、くしゃくしゃになったショートホープの箱を取り出し、残った二本の内一本を差し出した。彩菜は虫を目の前に差し出されたように表情を歪めると、言った。
「意味分からん」
「吸わんのね、まあええわ」
 そう言って鎌池が煙草をポケットにしまうと、彩菜は呆れたように笑った。
「そういう不良とはちゃうし」
「まあまあ遅いけど、家帰らんでええんかいな」
「うん、空気悪いから帰りたくない。部屋の鍵かけて電気つけっぱにしとったら、おらんってバレへんし」
「不良やな。今から遊び回るんか?」
 鎌池が呆れた表情を作りながら言うと、彩菜は首を横に振った。
「朝からずっと外やから、疲れた」
「真面目な不良やな」
 鎌池はそう言うと、煙草以外に懐柔する手段が思いつかず、坊主頭を撫でつけながら言った。
「お父さんと警察のトラブルは、どこまで知ってる?」
「うちの家、見張られてるんですか? 絶対そうや」
 彩菜はそう言うと、顔をしかめた。鎌池が真似るように眉を曲げたとき、彩菜の両目からコップをひっくり返したように涙が流れ出した。
「なんか最近、ずっと怖かってん。やっぱりそうなんや。捕まらんとか、絶対に嘘やと思ってた」
「いやいや。警察もさすがに、そんな嘘はつかんで」
 言いながら、鎌池は思った。どうして誤魔化すのか、自分でも分からない。口車に乗せたのはおそらく東山だ。いよいよ『その日』が近づいていることを察知して、彩菜は外で一緒にいたくもない男と遊んでいたのだろう。しかし、その怖がり方がどこか噛み合っていないように感じる。
「北井さん、お父さんからはちゃんと説明してもらえたんやろ? おれも警察のひとりやから、お父さんの言うてた通りにしようとしてるよ。それでも、そんな怖いかな?」
 鎌池が言うと、ジャケットの袖で涙を拭った彩菜は、首を傾げた。
「いや、考えすぎかも」
「ここ数日で怖い目に遭った? 今のおれ以外で」
 鎌池が言うと、彩菜は息を漏らすように笑った。怖がって守りに入っていた表情が少しだけ緩み、彩菜は言った。
「運動公園って分かりますか? もう一週間ぐらい前なんやけど、夜中に男の人が公園からこっち見てて、目が合ったんです。最初なんか、かっこいいなーとか思ってんけど」
 鎌池が先を促すようにわざと深呼吸をしたとき、彩菜は続けた。
「左腕になんか、めっちゃタトゥー入ってて。あ、ヤバい人かもって……」
 そのまま『うちの近所平和やから、珍しいんですけどね』と続けようとしたとき、彩菜は鎌池に手を引かれて、商店街の中で一番近いマクドナルドの中へ連れ込まれた。店員が顔を見合わせる中、彩菜は鎌池の顔を覗き込んだ。
「ちょっと、なんですか?」
作品名:Firehawks 作家名:オオサカタロウ