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自由と偽善者セミナー

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 信長の場合は、配下の明智光秀に謀反を起こされ、秀吉の場合は、家康に謀反を起こされた。結局、二代目は滅ぼされてしまった。
 それを見ているからこそ、家康は、幕府を築き、娘婿である秀頼を殺してまで、徳川の天下を知らしめようとしたのだった。
 考えてみれば、武家政権の最初であった、源氏も三代で滅びている。
 しかも、二代目も三代目も、どちらも、暗殺された。それを思えば、天下はほとんど、頼朝の時だけである。
 それだけに、頼朝も英雄ではない。
 足利幕府も、名目上は15代まで続いてはいるが、実際には、暗殺された人間が2人、御所に一度も入ったことのない将軍もいたり、ひどい場合は、
「くじ引きで、後継者を決める」
 などということもあった。
 もっとも極めつけは、9代将軍を決める時の、内乱が大戦争を引き起こし、応仁の乱となって、京都を焼き尽くし、結局、幕府を根底から覆すことになった。
 そういう意味では、3代目以降は、ほぼ形式でしかなかったということで、こちらも、
「3代以上は続いていない」
 ということになる。
 それだけ、一代で天下を取っても、それを維持していくには、どれだけ大変かということであろう。
 今の時代でも、3代以上続く企業というのも珍しいのではないだろうか?
 もっとも、時代の流れとして、
「バブルや、リーマンショック、今回のパンデミック」
 などというものを乗り越えて、世襲企業が生き残るのは、ほぼ無理なのではないだろうか?
 特にバブルが弾けてからというもの、リストラであったり、企業同士の吸収合併などによって、
「大きなところが、小さなところを組み込んで生き延びるしか手はない」
 ということで、小さな同族会社は、生き残れなくなっていた。
 しかも、バブルが弾ける前までにあった、
「銀行不敗説」
 というものが、まったく通用しなくなっていたのだ。
 昔は、
「銀行に就職できれば、潰れることはないので安泰だ」
 などと言われていたのだが、今ではまったく違い、
「銀行は、今まで融資したお金が回収できず、不良債権に見舞われて、にっちもさっちもいかなくなった」
 と言われるようになり、銀行こそ、
「吸収合併でもしなければ、生き残れない」
 ということになったのだ。
 結局、今も、次世代に受け継ぐなどということはできなくなり、
「英雄伝説」
 なるものは、
「今は昔」
 になってしまったのだろう。

                 大団円

 松下は、そんなヘッドコーチのことを正直知らずに、時々話をしていた。コーチも自分のことを、ハッキリとは明かしていない。
「自分は、勝負の世界で生きてきて、今は、指導者という形かな?」
 というような言い方しかしていなかったからだ。
 もっとも、松下は野球を見るわけではないので、彼の話をされても、きっとピンとはこなかっただろう。
 ヘッドコーチの名前は、張本コーチと言った。彼は、打撃に関しては、独自の理論を持っていて、その理論は、自分をコーチしてくれた現役時代の打撃コーチと、二人三脚で築きあげたものだった。
 最初こそ、
「自分とコーチが造り上げた打撃理論で、第二の自分のようなホームランバッターを育てたい」
 と純粋に思っていたが、実際には難しかった。
 打撃フォームが独特の自分だからこそできるもので、これを他の選手に当てはめるというのは難しいことだった。
 しかし、それだけに、他の選手が、独自の理論でやっているのを、反対はしなかった。その人に合っていれば、それでいいからである。
 実際に、今気になっている選手もいる。何とか一人前にしてやりたいのだが、どうしても、張本自身の理論を押し付けてしまいそうになる。それを何とか抑えようと、このセミナーに参加したのだ。
 ここは偽善者ばかりが集まっていた。
「偽善者になる素質を持った人の集まり」
 と言えばいいのか、どうしてここに通うようになったのかといえば、
「ヘッドコーチとして、全体を見なければいけなくなったからだ」
 といってもいいだろう。
 だから、ここの触れ込みとして、
「世間一般の恥ずかしくないような人間になれるため」
 というコースだった。
 金銭的にもセミナーとしては、さほど高くはないし、参加できる時だけの参加でもいいというのが、魅力的だったら。あくまでも、主導は本人主導ということである。
 まったく業界の違う松下と話すようになったのは、たまたまある時、席が隣だったからだ。
 張本は、チームの中で、監督が煮え切らないことでチームが混乱し、毎日のように小田原評定を繰り返していることに耐えられなくなった。
「皆偽善者じゃないか?」
 と思ったのだ。
 まさか、そんな自分が偽善者を養成するようなセミナーに参加していると思っていなかったが、小田原評定が行われている中に入ったことで、
「自分が偽善者だ」
 と、気付いたのだ。
 ということで、知り合った松下の話を聞いていると、彼は偽善者ではないが、偽善者になるための何かを備えている気がしてきた。
 ただ、そもそも、偽善者というのがどういうものなのかもわかっていない。
「世間一般では、あまりいいようには言われていないが、果たしてそうなんだろうか?」
 と感じるようになったのだ。
「ここでの、サークルの一番の基本は、自由です。自由な人間が、自由に振る舞うことができる。そんな環境を、自分自身で作り出す。これは、実は非常に難しいことです。環境にも、その人の性格にもよりますからね。だから、私は、皆さんに、自覚と先を導いてあげるお手伝いをしたいと思っています」
 というのが、サークルのモットーであり、方針のようだった。
 だから、参加者が自由に仲良くなるというのは、今に始まったことではなく、以前から結構あったことだったのだ。
 松下と張本も、どこで、意見が合ったのかよく分かっていないが、会話をすればするほそ、相手に事由が感じられ、そこは、職業の違いもあってか、お互いに敬意を表していたのだった。
 松下は、最近、またしても、
「何もないところから、新しいものを作り上げたい」
 という気持ちになっていた。
 それは、別に仕事である必要はない。
 そこで考えたのが、
「空想物語を、文章にする」
 ということだった。
 小説を書くといっても、別にプロになりたいという意識があるわけでも何でもない。ただ、
「継続は力で、長く続けていきたい」
 と思っているのだった。
 だから、彼がこのセミナーに参加したのは、
「なるべく、自分が今まで感じてきた世界とは違う人とも出会える」
 ということと、
「自由な風潮がどのようなものかを感じたい」
 と思ったことだった。
 そういう意味で、張本という人間を見ていると、興味が湧いてきた。
 この間までは、必要以上な情報を得ることを我慢していたが、最近では、
「解禁してもいいかも知れない」
 と感じた。
 というのも、張本が何か、少し様子が変わってきたからだ。
 どこか、偽善者的なところが出てきたのか、それとも、人間的に丸くなって見えるのか、それはきっと、彼が自由というものに目覚めたからではないかと思った。
作品名:自由と偽善者セミナー 作家名:森本晃次