時間を食う空間
それは、影の薄さに関係があるのかも知れない。
「そう、影が薄いなどという言葉を想像していると、それは、死が近い、あるいは、限られている命が限りを迎えているのではないか?」
と考えるようになったのだった。
佐久間はそんなことを考えながら、
「竹中老人がスマホに変えたことが、あの人の運命を変えたということなのだろうか?」
と考えたが、逆に、
「あの人の運命が最初から決まっていて、その運命に導かれるように、スマホが使われただけではないか?」
と思うと、そのスマホの効力を知っている人がまだいないから、誰もまだ何も言わないのだろう。
そのうちに、人知れずに行方不明になってしまったり、気がつけば、理由が分からない死体が発見されると言った。普通では信じられないことが起こってくるのではないだろうか?
「マスター、竹中さん。本当に大丈夫なんでしょうかね?」
と聞いてみると、マスターは、最初、佐久間の声が聞こえていないようで、動きもほとんど静止しているようだったが、よく見ると微妙に動いている。いや、まわりが凍り付いていて、自分だけが、この世で計り知れないほどのスピードになっていた。
「竹中さんはこれのことを、『時間が食う』と表現したのだろうか?」
と感じ、自分の寿命も一気に過ぎてしまったかのようだった。
「竹中さんは、スマホの中に自分の寿命が図れるソフトでもみつけたんだろうな?」
と感じた。
そして、自分がその同じ道をたどっていることを悟った佐久間は、次の瞬間、凍り付いた時間が元に戻ると、
「えっ? 竹中さん。それって誰ですか?」
と真顔でマスターが言った。
そう、ここは、
「時を食う」
のではなく、
「残された時間を食う」
ところだったのだ……。
( 完 )
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