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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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陶器ウキウキ(続・おしゃべりさんのひとり言 108)

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陶器ウキウキ



僕の実家がある田舎の集落には、江戸時代前期に活躍した陶工の生家が残ってる。
地元がばれるので名前は伏せさせてもらうけど、その集落にじいちゃんばあちゃんが住んでた家があって、父さんが引退後その家を引き継いだんだけど、僕自身はその田舎に住んだことはありません。
だからその陶工の名前を聞いたのは、もう大人になってから。
一体どのくらいの人物なのか調べてみたら、その活躍していた時代では著名な陶芸家だったというんじゃなくて、瀬戸で修業の後、茶器等の生産で活躍した一般的な職人だったそうです。
でも自分の作品にハンドルネームならぬ『銘』を押したものを残してて、陶工芸術家の走り的な感覚の持ち主だったようで、後の時代にその芸術性が評価されて行ったらしい。
だから注目されてからは、出身地こそ判明しても、生年も没年も不明となってる。
じゃ、うちの実家に彼の作品があるのかって言うと・・・・・・なんにもないです。
家はたった4軒隣なのに、そんなもの一つも残ってないんだな。
うちは築120年以上のかやぶき古民家。それでもさすがに江戸初期からの物件じゃないし、家系の代々の歴史でも色々整理や処分もされて来ただろうし、もしあったのだとしても、(近所の窯焼きのおっちゃんの壺)くらいの感覚で、廃棄されてたりしたのかも。
近所のどの家にもどころか、集落の大きなお寺とかにも残ってないらしく、今は国宝や重要文化財として、全国の博物館でしかお目にかかれないのだとか。

じゃ僕が持ってる陶器類で価値のあるものって、『ウェッジウッド』のティーカップセットくらいか。
それ4客で数万円するけど、100年後もそんな値段してるだろうか?
いやそれはないでしょう。大量生産された食器だから、ブランド名で高くても、実際の希少価値はそれほどのもんじゃないだろうから。

それよりずっと気に入ってるカップが、うちにはあります。
知り合いにもらったタイの陶器のことで、ソーサーとカップとフタのセットが、赤青色違いで2客。
多分、大量生産されてる土産物だけど、その紺色の方が僕のお気に入り。
形状は底部がぷっくりと球体になった取っ手付きカップで、つまみの付いたフタが載ってる。
長く使ってると、お茶のタンニンが滲み込んで、内側に釉薬のひび割れ模様が浮かび上がって来て、なんとも味のある表情になったんです。
普段、中国茶を飲む時は、いつもこれに淹れて楽しんでました。なんかウキウキするんです。

ところが妻が洗ってる時に、フタを落として割っちゃったんですよ。
割れたのがカップ本体じゃなくてまだよかったんだけど、僕が気入ってるのを知ってた妻は、慌てて誤魔化そうとしたのか、破片を瞬間接着剤なんかでくっ着けてしまったんです。
結果、接着後は手を放しておいたので、形がゆがんだまま固定されてしまい、はずすことも出来ず惨めな姿に。
高価なものじゃないから仕方ないけど、悔やみきれない何かを感じたよ。
せめて僕に言ってくれたら、丁寧に、きれいに、完ぺきにぃ! 補修して、簡単な金継ぎでも施したのに、残念だ。
ところで・・・『金継ぎ』って知ってますか?
割れた陶器を膠で接着して、更にそのひび割れ部分に漆を流し込んで、その筋に沿って、金粉を刷毛で塗り込むと、ひび割れを純金で接着したような模様となる、古より伝わりし洒落た補修技術のことです。
僕はこんな技術持ってませんけど、最近は金色の真鍮粉で代用した簡単なキットが発売されているので、それでやってみたかったな。
でもズレて接着されてしまってればもう手遅れ、今も歪んだ不格好なフタを載せて使ってます。

その他に気に入ってる陶器は、バリ島のご当地工芸品の食器です。
それは、素焼きのようなシンプルな見た目だけど、すご~く洗練された形が特徴。特段飾ってなくて色も地味なのに、上品な華やかさを兼ね備えてるんです。
僕はバリで結婚式を挙げたんですけど、宿泊していたリッツカールトンホテル(現・アヤナリゾートホテル)がその陶器を採用していて、客室やロビー、レストランで常に目に入って来ていました。
そのフォルムがあまりに魅力的だったんで、コンシェルジュに尋ねると、仕入れ先の窯元を紹介してくれたので、わざわざ買いに行ったんです。
当時は『サリブミ』という工房名でしたけど、色や形はバリエーションが少なくて、僕はホテルにあったのと同じ、白いテーブルウェアばかりを買い揃えちゃいました。すごく安かったです。
その時の白いスープボウルは、ご飯茶碗として今も毎日使ってます。
その後もバリに行く度、必ず立ち寄ってましたけど、徐々にバリエーションが増えて有名になると、繁華街にショップがオープンし、店舗数も徐々に増えていきました。
でも、いつの間にかオーストラリアの実業家に買収されたそうで、『サリブミ』という名称は使われなくなってしまいました。
今では『ジェンガラ・ケラミック』というブランドになってますけど、作品自体に当時の味わいは残されています。でも価格は10倍くらいになってしまって驚きです。
それでもそのお店で品定めしている時は、ウキウキします。
大切な人には、お土産として持ち帰って来ますが、いつもその道中に割れないか心配です。