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端数報告7

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夏の風邪はバカが引く、とその昔から言われるわけは


 
前回の続きだから7〜8月だが2020年の夏は変な夏だった。7月は雨が降っては止んでの日々で青空をほぼ見なかったのが、8月になってカンカン照り。
 
毎日が猛烈な暑さとなる。しかも後半になってさらに暑くなり、夜になっても気温が下がらぬ熱帯夜の連続となった。
 
のだけど、皆さん憶えてますか。おれはよく憶えているぞ。8月15日くらいから31日くらいまで半月ずっと熱帯夜。
 
東京ではそうだった。「なんだなんだ盆過ぎになって」と思ったもんだがそうなった三日目くらいのことだ。また壁越しに聞こえるニュースが、
 
「コロナの患者がこの二日間に急増です! 何千という人が発症、高熱を出して病院に搬送される事態に。〈波〉です! これは第2波です!」
 
と叫ぶのが耳に入った。志村けんが死んだ頃からこの前日までのテレビは「第2波はいつ来るか」というのをひたすら繰り返しており、〈専門家〉の答は必ず【すぐそこにまで迫っている。このまま行けば三日後にも】だった。
 
そう言いながら4ヵ月半、135日経っても[感染者数の増加]以外にそんなものが来る兆しは見えず、死者も一日にひとり出るかどうかというとこだったのだけど、その第2波が来たならば【スペイン風邪を遥かに凌(しの)ぐ史上最大の災厄だから人類はほぼ絶滅する】ということになっていた。
 
【そしてそれは日本で始まる】ということになっていた――この日本ではだ。別の国では別の狂った報道がされててトランプが「中国の兵器だ」と言ったり中国が「トランプの陰謀」と言ったり、なんかいろいろやってたようだがこの日本ではだから前回に書いたように、
 
 
 
   《コロナには日本を目指す習性があると考えられる。
    人類を絶滅させる禍を起こすには世界の中心に行かねばならず、
    日本がその中心だからコロナは日本にやって来るのだ》
 
画像:企画構成西崎義展 アフェリエイト:宇宙戦艦ヤマト
 
としか聞こえぬ報道がされてて、日本人にはそれが正しく聞こえるために疑問を持たれることがない。隣の部屋から聞こえるそれを「バカか」と思って聞くおれは日本人ではないのかもしれぬが、遂にそれが来たと言うのだ。
 
「もうおしまいだ! おしまいです! あすにこの倍、あさって十倍、しあさってには一千倍の患者が出て、そのほとんどが死ぬでしょう。これが政府と我ら報道に関わる者が、無駄と知りつつなんとか防ごうとしていた〈波〉なのですから!」
 
なんてことをニュースがわめく。その声をおれは壁越しに聞きながら、
 
 
 
   「いーや。きのうおとといとひどい熱帯夜だったから、
    冷房をガンガンにかけてハダカで寝たようなのがどうせ
    大勢いたんだろ。それで前からウイルス持っていたやつが
    風邪を発症させたんだ。
    そりゃ重症となるのもいるよ。死ぬのもいるよ」
 
 
 
と考えただけだった。だから風邪とはそういうもんだと昔から言われてることで、誰でも知ってるはずじゃねえか。それがどうしてこんな話になっちゃうんだ?
 
としかおれの頭では思えん。その日の夜もまた熱帯夜となって、その次の夜も熱帯夜。あーいつまで続くんだ、と思うけど起きてみれば朝から暑いし、外はカンカン照りでありだから今夜も熱帯夜だろう。天気予報は雨は当分降らないし夜の暑さも続くと言ってる。
 
外れてほしい天気予報はあまり外れぬものである。一方、ニュースはコロナの患者が出続けてると言ってるが、「増える、増える」と言いながら一日に出る数は増えない。【十倍、百倍、千倍と幾何級数に増えて致死率もハネ上がり、ほぼ百パーになる】と言ってた話と違う。
 
「なぜでしょう」
 
というスタジオの問いかけにリモートで応える〈専門家〉が、
 
「それはですね、ゴニョゴニョゴニョゴニョ……」
「それはですね、ゴニョゴニョゴニョゴニョ……」
 
なんて口々に話すのを天気予報を見るついでにおれも見ることがあったけれど、理解不能な専門用語の羅列である一方でひとりひとりの言うことがまるで違うのがわかるという。スタジオは、
 
「では、やはり明日にも十万が死に、百、千万と死ぬと見ていいのですね?」
 
と言ってこれに、
 
「はい。それに関しては、まず確実と言うことができます」
「はい。それに関しては、まず確実と言うことができます」
 
と答える。それは全員が同じという。だからおれは、
 
 
 
   「だからそんなのクーラー病に決まってんだろう。
    なんで気づかねーんだお前ら?」
 
 
 
とテレビに言いたいけれどテレビに言ってもしょうがないので電源を切って外に出る。【明日にも世界が終わる】と千人の〈専門家〉が確約しているのを知らぬ人間がいるとはちょっと思えんのだけど、しかし町は落ち着いていて、おれがマスクをせず歩いても誰も咎めだてしない。夏休みだから子供は遊んでいるし、スーパーでも米が普通に売られていて、買い込みをする者もいない。
 
絶望の顔をしている人間なんてどこにもおらず、八百屋さんも笑顔でキャベツやトマトなんか売ってくれる。
 
おれは買って帰りながら、たぶん腐ったエリートと違って、地道に生きるまっとうな人は薄々気づいてるんじゃないかな、と思った。これは『さらば宇宙戦艦ヤマト』だ。マスコミだの政治家だのは古代進気取りであり、宇宙のどこかに白い彗星が出たと聞いたら《それは人類を滅ぼすものに制御されてる》と決めつけてしまう。自分は〈ヤマト〉を動かして止めに行くことができるのだから、止めに行くことができるのだ。
 
画像:白色彗星 アフェリエイト:さらば宇宙戦艦ヤマト
 
と考えて〈ヤマト〉に乗って飛び出してしまう。これで俺は英雄だ! 人類を救った英雄として歴史に永遠に名が残るんだ!
 
という考えで頭が一杯。だから話が何もかも西崎義展が企画し構成したようなのに気づかないが、しかし一般の八百屋さんには〈ヤマト〉を動かすことはできんし、乗組員になることもできない。
 
いや、なろうと思えばなれる。つまりその辺の町の議員についてくことはできるけれど、「マスクをしましょう。密を避けましょう」と言って道を流してるだけだ。そんな〈ヤマト〉がひっきりなしに町を行き交っているけれど、あの街宣カーの中に本当の古代進が乗るのがあるとはとても思えない。
 
と誰もが考えているのだ。政治家はコロナと戦ってなどいない。《無駄と知りつつ民を救う努力は全力でしたのだ》という体裁を作って見せてるだけだ。新興宗教の教祖のように、自分に投票する者だけが助かる未来を夢見ている。
 
てのが露骨にわかるのでついていってもしょうがないのがわかるのだけど、あいつらが期待している〈波〉なんて本当に来るのかよ。今のこれがそうだと言うけど、まわりに倒れた人間なんて全然いる感じがないじゃん。
 
と誰もが考えているのだ。そりゃ「患者が急増」と言っても人口一千人あたりひとりいるかどうかってとこで、百万にひとりが死ぬかどうかってとこなんだから当たり前だが、それが多くの一般人の感じるところなのではないか。
 
作品名:端数報告7 作家名:島田信之