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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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オフ会行ったらタヌキが来た

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僕の目の前には、物凄い美人が立っていた。彼女は、びっくりした事に照れているのか、ちょっと笑っていた。

雑踏の向こう側に街燈が立っていて、逆光になった彼女の輪郭は、とても細い。でも頬はぷっくらとつやつやしていて、意外な事に、お化粧をしていないように見えた。それとも、ナチュラルメイクかもしれないけど。僕にはそれは分からなかった。

ぱっちりとどこか頼りない大きな目。困っているように下がった眉。ちょっと尖った小さな鼻と、控えめで薄い唇。豊かでふわふわの、ブラウンの髪はミディアムというのか、肩にはつかないほどの長さに伸ばしてある。美人だった。

彼女の服装は、長袖のシフォンブラウスに、少し広がった、バレリーナのように布地の重なっている黄色いスカートだった。スカートには、動物の尻尾のようなフェイクファーのアクセサリーが付いている。足元は、もう秋だと言うのに、まだサンダルだった。

それから彼女は、前髪を枯れ葉のようなピン留めで止めていた。“秋らしい装いだな”とは思ったけど、まったく枯れ葉にしか見えないリアルさで、最初は少し驚いた。

「あ、あの…」

僕は彼女を見て、いっぺんで口が利けなくなってしまった。だって、本当に女の子で、こんな美人だなんて、聞いてない。

“うっそだろ!?”

そう叫びたかったのに、「え、もにょです…」と言う事しか出来なかった。

「もにょさん、初めまして!初めまして、なのかな?いつも喋ってるし、なんか変な感じですね!じゃあ、お店に入りましょうよ!」

「えと、はい…」

すっかり情けない返事しか出来なくなる程僕は縮こまって、彼女の腰に下がる尻尾アクセサリーがぴょこぴょこと揺れるのを見詰めながら、僕はレストランに入って行った。




“高価格帯を選んで正解だった”

いくらファミレスとはいえ、値段が高い店は客層が良くなるので、そんなにうるさい客は居ない。新宿だからみんな少し気は大きくなっているが、ギャーギャーと叫び続けているなんて事はなかった。

僕達の席は、一番奥まった窓際のボックス席だった。もちろん僕は奥側に彼女を通して座る。

注文は済んで、たあさんは目玉焼き乗せハンバーグ海老フライ付きプレート、僕はジャンバラヤを頼んだ。

“でも…こんな美人に、僕がどんなお話をしたら…?”

不安になった僕は、“まずは出されたお水を飲んでいるのだ”という振りをしていた。そこへ、早くも彼女がこう話しだす。

「もにょさん、今日何されてたんですか?土曜日ですよね?あ、そのお荷物の、お買い物ですか?」

僕は手にレコード袋を提げたままだったので、“話題があって良かった。あまりマニアックな話をしないようにしないとな”と、話し始めた。

「ええ、ちょっと早くに新宿に着いたので、ディスクユニオンでレコードを買っていたんです」

すると、たあさんが首を傾げる。

「え?レコード?」

「はい、音楽の…」

その時僕は、ちょっと考えつかない台詞を聴いた。たあさんは首をさらに捻り、顎に指を当てる。

「レコードって、なんです?」

「えっ…」

僕はその時、“今はレコードの流行りが戻り始めているとまで言われているのに、やっぱり知らない人も居るんだな”と思った。でも、そこまで不審な事でもないので、説明をする。

「ええ、これをプレイヤーにセットして、音楽を聴くんですよ」

そこでたあさんは飛び上がって驚く。

「えっ!?音楽って、そんなに小さいんですか!?」

“ずいぶん世間知らずな人なんだな?ちょっと変だけど…珍しいなあ”

「ええ。記録媒体ですからね。楽器とは違って、小さく済みます」

「へえ~そうなんですね~」

そこでたあさんはやっと席に体を収めてくれて、大いに感心した様子で、しばらく「ほお~」など、溜息を吐いていた。

僕は、一つ一つ新鮮に驚いたり感心したりしてくれる彼女の様子に、はっきり言って夢中になりそうで怖かった。でも、“いやいや、初対面なんだから、失礼な真似はよさないと”と、真摯であろうと努力した。


僕は、いい歳をして恋愛をした事がほぼない。今は23歳だけど、女性とのお付き合いなんて生まれてこの方した事がなかった。だから、女性との会話自体が珍しいのだ。

そんな男を新宿くんだりまで引っ張ってきて、美人な女の子と会わせてみろ。そりゃあ興奮してしまうのも頷いてもらえるだろう。


でも僕は、美人だからと言ってこちらを見下したりなどしない彼女に、少し緊張を解く事が出来て、今度は自分から話し掛ける。

「たあさんは、何してたんですか?お母さんに会いに行かれたとか?」

そう言うとたあさんは、「ええ!」と大喜びで笑ってくれた。その時の笑い顔があんまり可愛くて、本当なら僕は、その後の話を記憶しておくのが大変だったかもしれない。

でも、僕は幸いにか、不幸な事にか、たあさんの話にすぐに齧りつき、真剣に聴いた。彼女はちょっと俯きがちにこう話す。その表情は、少し辛そうだった。

「お母さん…もう歳だから、「一度会いに来て」って言われて…それで、お野菜とお花を持って訪ねたんです…“年を取ってちっちゃくなっちゃったな”って思うと、ちょっと辛いけど、会えて嬉しかったです」

その話を聴いて、僕は迷ったけど、一言置いてから、この集まりの事を話した。

「そうですか…僕も、母さんがもう56歳だから、心配です。会えて、良かったですね…でも、そんな日に僕と会うなんて、良かったんですか…?」

僕は、たあさんの話を聴いて、こう思った。

“少しでも、お母さんの傍に居させてやるのがいいんじゃないか”

でも、たあさんはすぐに笑顔に戻って首を振る。

「大丈夫ですよ。お母さんだって子供じゃないし、それに、ご飯を食べたら帰れますから!今日はお母さんのうちに泊まるんです!」

「そうですか…」