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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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オフ会行ったらタヌキが来た

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僕には、親しいTwitterのフォロワーさんが居る。そして彼女は。そう、彼女は。唯一僕と会話をしてくれる、女性のフォロワーさんだ!

とは言っても、もちろんネット上の付き合いだし、顔も見えないんだから、「女性」という言葉だけでは、インターネットで信用していい事など何もない。

僕がつぶやく「おはよう。これから仕事です」などに、彼女は時たま、起きた時間が重なったりしていたのか、「行ってらっしゃい!」など、絵文字付きでの返信をくれた。

彼女は絵文字が好きなのか、色々な絵文字を使うけど、食べ物も好きなようで、目玉焼きやベーコンの絵文字を朝に添える事は多かった。でも、女の子には珍しく、あまり甘い物の絵文字は使わないみたいだった。

あまり写真をアップロードしない人だったので、「ごはんを食べました!」や、「小川のほとりで、お散歩の合間に休んでいます」など、文字だけのツイートがいつもだった。まあ、女性が今居る場所の写真をツイートするのは、危険だとも言える。

彼女は名前を「たあさん」と言い、いつも可愛らしいツイートで僕の気分を和ませてくれていた。

そんな彼女と僕は、なんと、「オフ会」をする事になった。しかも、二人きりで。



オフ会。もちろん僕は、「おそらく女性と思われる方」が来るなら、そりゃ嬉しい。少しは「いいな」と思っていた訳だし。しかし、彼女は「東京に行くのが初めてなので!」なんて言って、ダイレクトメッセージではしゃぎ、時間は夜を指定されたのだ。

もちろん僕は心配した。以下が、その時のやり取りだ。


もにょ たあさん、女性がいきなり東京で深夜に男性と会うなんて、二人きりなんて、ちょっと危なくないですか?僕が変な人だったら、どうするんですか?

(「もにょ」は僕のアカウント名だ)

たあ え、もにょさん、変な人なんですか?

もにょ いえ、僕は「違う」とは答えられますが、変な人が「自分は変な人ですよ」とは言わないですし…

たあ 違うなら、いいじゃないですか!いつもご挨拶してますし、実際に会ってみたくて!それに、もにょさんのお顔は存じていますし!

(僕は一度だけ自分の学生時代の写真をアップロードした事があった)


僕はその後も食い下がって、「昼間にした方がいいのでは」とも言ったが、「大丈夫ですって!それに、お昼はお母さんと会う予定があるんです!」と断られてしまった。

母親と会うと言うなら止める訳にいかないし、彼女も一応大人なんだろうから、“まあ大丈夫だろう”と思う事にして、僕はオフ会の日までを、だらだらと、そしてどこかそわそわと待った。





やってきたのは、秋の夕暮れ。

僕はせっかちなので、友人との予定などで早く出てしまう方。待ち合わせは夜の7時なのに、新宿に1時間半も早く着いてしまった。

「レコード屋でも行くか…」

音楽ファンでもある僕は、新宿の有名レコード店をちょっとふらふらと回って、それから、カフェでカプチーノを飲んだ。

温かなカプチーノのカップが、とっぷりと暮れた夜の窓ガラスに白く映り込む。室内の景色を反映した通り沿いは、人々が急ぎながら歩いていた。

“そんなに急いで、一体どこへ行くんだろうな。僕も…”

ふと感傷的になってしまう、肌寒い秋の日。でもその日の僕は、「初めての人と会う」という楽しみがあったのだし、飲み終わって頬杖をつくのはよして、すぐに店を出た。


行き先は、ちょっとお高いファミレスだ。僕のお給料ではファミレス程度の会計しかご馳走出来ないけど、相手は女性なんだから、尚更高い店にする訳にはいかない。もし「割り勘にしましょう」なんて押し切られたら、彼女に負担が掛かってしまう。東京に出てくる交通費もあると言うのに。

色々と、僕はもうすっかり相手の事を「女性」と思い込んで、頭の中で段取りを考えながら、店の前に着いた。

ダイレクトメッセージで店の地図を送ったし、彼女からも、「これから向かいますので、よろしくお願いします!」と、25分前にメッセージが送られてきていた。

緊張して、どんな人か、どんな格好なのか想像していても、やっぱり僕は俯いてしまっていた。

僕は、あんまりモテない。だから、いくら親しいフォロワーとはいえ、印象が良くなかったらと思うと、前を向いて彼女に会おうなんて、思えなかった。

そうして街燈の灯りをザラザラと返すコンクリートを見るともなしに見ていた時、とたたたたっと、軽い足音が近寄ってくるのが聴こえてきた。僕は思わず、思い切り顔を上げてしまった。それに驚いたのか、彼女は「きゃっ!」と小さく叫んだ。