小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ネル君がくれた紅茶

INDEX|3ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 




僕にはその時、口に出来る言葉がなかった。

“冗談を言う雰囲気じゃない”

“でも、冗談に違いない”

“なんてツッコむのが正解なんだろう?”

もちろん僕はすぐに信じる事もなく、一応首を傾げて、彼を傷つけないようにこう聞いた。

「え、どういう事?」

すると、ネル君はこう話しだす。

「正確には、僕の祖先達が、火星の住人だった。火星から脱出し、宇宙をさまよっていたんだ」

僕は、どうしたらいいのか分からなかった。「そんな冗談よしてよ」なんて笑い飛ばせるような様子じゃなかった。彼は本当に、宇宙を放浪してきた祖先の歴史に敬意を払い、哀れみを感じているように見えたんだ。

でもやっぱり、僕は騙され掛けているとしか思えなかった。

“どう言えば、この話に応じなかった事になるかな…”

僕を騙そうとしているなら、軽はずみにネル君の話を信じたような口ぶりで話したら、笑われるのは僕の方だ。だから、僕は少し抵抗した。

「それで?」

僕はその一言だけを言った。あくまで話の先だけを欲しがった。

「うん。僕達が地球に来たのはもう100年も前なんだ。でも、今度、別の銀河の星に、移住する事になったんだよ」

「えっ…」

僕はその時、ネル君には悪いけど、素直にこう思った。


“もしかしてこれって、新手の詐欺かな…?”

“宇宙に行くお金が足りないんです、なんて言って騙し取られる…訳、ないよね…”

“こんな話、誰も信じないし…”

僕が返事に迷っていると、ネル君は、床に置いていた自分の鞄を拾い上げる。そしてその中から少し大きめな瓶を取り出して、テーブルに置いた。

僕は黙って瓶を見ていたけど、それはどうやら、紅茶の瓶みたいだった。おかしな話だ。紅茶の瓶を出すのに、火星の話なんか必要ないだろう。

そう考えてネル君の顔をちらっと窺うと、彼はまた喋り始めた。

「これは、僕の故郷で獲れたお茶なんだ。僕は地球を旅立つにあたって、これを君にあげようと思って、今日、君の家に来た。だから、約束して欲しい事がある」

「え、ちょ、ちょっと待って…」

僕は、急速に進んだ話に、少し警戒した。まさかこのお茶が毒物だともあまり思えなかったけど、もしそうだとしたら、そんな物を手元に置きたくないから。

「そ、そんなの…ごめん…僕、よく分からないよ…」

僕はとうとう降参した。自分がネル君の話を受け入れられないと、音を上げてしまった。でも、ネル君は僕を責めたりしなかった。

「大丈夫。急に信じる事が出来るなんて、思ってない。なんでも聞いて」

“なんでも聞いて”

その言葉に僕は、少し勇気が湧いた。

“そうだ!一つ一つ聞いてみれば答えが出るんだから、彼の話の理由が分かるかも!”

僕は、一つずつ、浮かんでいた疑問をネル君に聞いた。


「えっと…この話が、もしかして、僕を騙す冗談だったり…?」

「しないよ」

ネル君はそう言って、緩やかに首を振る。

“そう言うよね…冗談だとしても”

諦めず、次へ。

「じゃあ…君は、詐欺師だったり…?」

「そんな事出来ない」

そう言ったネル君も、優しく笑っていた。

“詐欺師も、そう言うんだろうなあ…”

挫けずに、最後の質問へ。でも僕は、聞こうとした時、ひやっと胸が冷たくなった。

“これが本当だって言われて…僕は信じられるのかな…”

怖かった。友達の言う“本当の事”を受け入れない自分なんて、見たくない。だから僕は、自分が勇気を示せるようにとだけ祈った。

「本当に、君は…火星人だった…の?」

その言葉に、ネル君は黙って頷いてしまった。僕はその瞬間、高い山から滑落していくような恐怖を感じた。

“信じなきゃ、彼は僕の友人で居てはくれないだろう”

“でも、そんな話が本当にあるんだろうか?いいや、信じないと…”

“…信じないと…”

僕は、心細い気持ちで胸がいっぱいで、でも、どうしても信じられなくて、自分を恥じながら、ネル君に頭を下げた。もう、いっぱいいっぱいだった。

「ネル君…!ネル君、ごめん!やっぱり、僕…」

頭の上から溜息が聴こえて、やっぱりその時僕は、“からかわれただけだったかも”と、一瞬思いかけた。でも、顔を上げた僕が見たのは、異様すぎる物体だった。

しゅるしゅると伸びる、ネル君の腕。それはまるでゴムで出来た人形みたいで、彼はそれをすぐにしゅるっと縮めて、元に戻った。そして、テーブルに肘をついて、僕に微笑む。

「わかった?」

僕は、驚きと、混乱と、少しの恐怖で、一生懸命頷くしかなかった。



作品名:ネル君がくれた紅茶 作家名:桐生甘太郎