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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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ネル君がくれた紅茶

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それは、単純に思いつく事を言い合っていた時だった。最近あった事から、僕達の話は自由連想へと移っていて、湧くままに出てくる言葉で、お互いに楽しんでいた。ネル君がこう言う。

「そういえば。“火星の宇宙人はタコみたいな形をしている”っていうのは、昔の小説かららしいね」

僕はその時、高校生の時に読んだ小説をすぐに思い出せた。

「ああ、ハーバート・ジョージ・ウェルズのだよね。僕も読んだよ。面白かったな」

そう言ったけど、ネル君はちょっと唇をとんがらせた。

「そう?僕は、見当はずれで、失礼だなと思ったけど」

そんな事をネル君が言うので、“火星人なんて居るはずもないのに、そんな方面にまで気を遣うのがネル君らしいな”と思って笑った。

「大丈夫だよ。火星人なんて、ほんとは居ないんだから」

僕がそう言って、そこで話はおしまいになった。

「このお茶、美味しいね」

ネル君はティーカップからお茶を飲む。紅茶はケニアの銘柄で、とても美味しい。気に入ってもらえて良かったと思った。

「これね、昨日届いたばかりなんだ。今日に間に合って良かった」

「大倉のブルーローズで飲めるのも、気分がいいな」

そう言ってネル君は、手にしたティーカップをちょっと傾けて、絵柄を眺めていた。“大倉陶園”のブルーローズは、地の白も、青で描かれた薔薇も、とても美しい。

「でしょ。たまにこれで飲むんだよ。元気出ない時とか」

「ふふ」

僕はお茶菓子にスコーンを焼いてあったので、テーブルにはスコーンの皿が二つあった。でも、ネル君はなかなかそれを食べたがらない。

「スコーン、食べないの?もしかして、小麦ダメだったかな?」

そう聞いてみると、彼が急に険しい顔をしたので、僕はちょっとギクっとした。

黙ってネル君を見詰めていると、ネル君は何かを考え込んでいるように顔を背けてからこっちを向いて、僕にこう言った。

「浩二。僕達は、友人かな?」

「えっ…」

僕はその時、妙な焦りを感じた。後になって勘違いだったとは分かったけど、“もしかして、カミングアウトされたりするのか?”なんて思ったから。でも、まさか別の“カミングアウト”をされるとも思っていなかった。

「友達…だと思うよ。僕は、そう思って、途中からは接してたけど…ごめん、迷惑だったかな…」

途中から自信がしぼんでしまったので、僕は無意味な萎縮をした。ネル君はそれを気遣ってくれた。

「いや、それなら問題はない。でも、そうだとすると、僕は君に話さなくちゃいけない事がある」

そう言ったのに、ネル君は黙って俯いていた。僕は両手に持っていたカップを置いて、こう聞く。

「うん…聞くよ」

ネル君は、長い事迷っていた。僕は、その間に、色々と想像してしまった。

“お金の相談、なんて流れじゃないよね…もしかして、元は犯罪者だとか?でも、ネル君が?”

「浩二…」

ネル君の目は、勇敢だった。僕はそれを見て緊張したけど、安心もしていた。

“何かとんでもない話には違いない。でも、彼がこんなに堂々としているんだから、僕は何を聞いても悲しむ必要はないんだ”

そう思った。でも僕は少し力んでいたから、ネル君の次の一言で、脱力してしまいそうになった。


「僕は、火星人なんだ」


作品名:ネル君がくれた紅茶 作家名:桐生甘太郎