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満月鏡

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あの夏の夜は 夜空が晴れた満月だった。
不思議な光景だったが 疑うよりも見えていることに夢中になった。


僕が月を見上げると 彼女が映っている
彼女は少し首を傾げ手櫛で髪に触りながら
月を見上げている

僕は嬉しくて 月に映る彼女に手を振った
けれど、彼女は 満月にうっとりとした視線
月に? 誰に見惚れているんだ?

もう一度、僕は手を振ってみた
彼女は 浴衣姿だ どこかの祭りか夕涼み
左手で扇ぐ団扇には 涼しげに泳ぐ赤い金魚が二匹描かれている


満月の日だけ こんなふうに離れている彼女の姿を鏡のように映してみせる。

『満月鏡』

――鏡に月のパワーを転写して持ち歩くことができる
沈んだ気持ちの時にその鏡を見つめ、不浄なものを浄化するというものらしいが 僕のこの現象とは違う。
僕の『満月鏡』は 僕の方だけに見えるだけ、僕の姿は月には映らない。
覗き見のようないけない葛藤があるものの、幻と思えば気も軽くなる。
現か幻かを問うより 彼女に逢いたい。
それこそこの僕の不浄な考えを満月のパワーが諫めているのかもしれない。


何を思うの・・・
キミは 遠い眼をして・・・

作品名:満月鏡 作家名:甜茶