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満月鏡

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しかし、その後も 翌年の夏も彼女は現れなかった。
逢えるのは、交換した連絡先のメールだけ。
僕は 後悔している。
何故メールのアドレスを訊いたのだろうかと。
何故電話番号を訊かなかったのだろうかと。
薄れていく脳裏に浮かぶ彼女の容姿。服装も髪型もあのわずかな時間だけの記憶。
声も いろんな音や声が混ざって 彼女の楽し気な笑い声も声色も純度が落ちている。
写真画像をおねだりしたが 断りの言葉もなく 叶わないままだ。
季節ごとの公園や僕の庭に咲く草花の話はしたが、現物を共有できていない。
写真を送っても その時吹いた風に揺れた様も 香りの混じる空気も伝えられない。
(もうこちらには 来ないのかなぁ)僕の欲望は伝えることはできない。
僕には家族があるし、公にして彼女の知り合いとの居心地が悪くなってもいけない。

きっとこれが『いい距離』なのだと思う。

作品名:満月鏡 作家名:甜茶