満月鏡
そして、小一時間ほど彼女と植え込みの雑草とゴミを片付けた。
草のゴミ袋と可燃ごみの袋を 公園の指定の集積場所に置いて 水飲み場で手を洗った。
僕の首に掛けてあったタオルを貸すのは出来ないが、彼女の手は既に水を撥ね退ける勢いで 手首だけでなく 肘のあたりまで揺れるように振っていた。
僕の心の笑いは 顔の筋肉まで到達して 頬がぐっと上向きに硬直した状態だ。
「あらま。笑われちゃったぁ」
彼女も 前歯をちらつかせたり、唇の皺が立つほどに結んだり、はにかんだ表情に僕は見惚れてしまった。
「お礼。お礼とは違うのですが、連絡先を教えてくれませんか?」
何という大胆な申し出をした自分に驚いてはいたが そうすることが正解な気がした。
「あ、怪しい者ではありません」
(充分怪しいだろう!)僕の何処かで囁いたヤツを封じ込めた。
「わたし?」
「そうです、あなた」
「何の話をするの?」
「此処の花の話を」
「お花?」
「木もです」
こうして、僕と彼女の繋がりができたのだ。