紫に暮れる空 探偵奇談25 後編
坂道の悪意
それは端から見れば暇つぶしだと思われていたかもしれない。実際恵麻はそのように振る舞っていた。だけど本当は、劣等感やコンプレックスとか存在意義とか、そういった汚く幼稚な感情に振り回された、弱い自分の悪あがきだったのだと今はわかる。
恵麻はクラスの中で自分の地位を確立していたし、自分の振る舞いで周囲が思い通りになるのも知っていた。成績もそこそこよかったし、大勢の中心でいられることが心地よかった。
だから、転校してきた相良美捺(さがらみなつ)が、クラスのみんなの視線をさらったり、部活で活躍したり、定期考査でよい成績を残すことが気にくわなかった。
大人しく、どちらかといえば地味であった美捺だが、愛嬌があってすぐにクラスに溶け込んだ。バドミントン部で活躍し、溌剌とした彼女は教師にも好かれていた。
気に入らなかった。
わたしのほうがきれいだし。
わたしのほうが友だちも多いし。
わたしのほうが目立ってる。
わたしのほうが。わたしのほうが。
(あいつ、うざいなあ…)
髪の手入れは欠かさない、適度な運動と筋トレで、体形もキープしている。美容にはお金がかかるから、バイトをしながら勉強も欠かさずする。友達との遊びの時間も、彼氏との時間も、生活の中からちゃんと捻出している。努力しているのに。
本当に、目障り。
始めは、話しかけられても冷たくあしらうことだった。それがやがて無視となり、なんとなくクラスメイト達も面白がりはじめた。
あいつうざくない?それだけの、無責任で曖昧で根拠のない理由で。
美捺には、何の非もなかった。しかし、妬みや嫉みは恨みを買うし、恨みはなくとも悪意はいとも簡単に伝播していった。恵麻がやるならわたしもやろうかな、という不健全で誤っている人間関係や友情が、いじめに拍車をかけた。
悪意は、どんどんエスカレートする。坂道を転がり落ちるがごとくスピードを増し、止めようと思ったときにはもう止められない。
クラス中からの無視。
私物の破壊。
罵詈雑言。
幼稚な悪意による攻撃は、枚挙にいとまがなかった。
作品名:紫に暮れる空 探偵奇談25 後編 作家名:ひなた眞白