紫に暮れる空 探偵奇談25 前編
「…センセ―、お、俺実は…昨日カノジョに振られて…傷心で、夜もあんま寝れんくて…」
松前がちょっと涙目でシュンとしている。周囲がエーとかマジでーとざわめきだした。松前が他校の女子生徒とラブラブだったのは有名な話だった。紫暮はため息をついて、なんで振られたのと、心底興味がなさそうに尋ねた。授業が止まるのは困るが、傷ついている松前をほうっておくのも気が引けるのだろう。
「わかんないんだけど…なんか、最近俺のことがジョン万次郎に見えて冷めてきたとか、わけわかんないこと言い出してさあ…」
松前は半泣き状態、話を聞いたからには無視できないし笑ってはいけない。クラスメイト達は吹き出すのを堪える。
「………フ、」
教卓に両手をついて俯いた紫暮が小さく噴き出した。それにつられて二、三人が噴き出してしまい、松前は怒った。
「せんせえひどいよ!俺本気で悩んでんだからね!?!?」
だめだ、ますます笑ってはいけない。紫暮が待てというように片手をあげて、気持ちを落ち着けているのがわかる。
「…あのな松前、それは、ジョン万次郎は関係ない」
「どういうこと!?!?俺そんなブサイクじゃないよねえ!?!?」
「ジョン万次郎はブサイクじゃないし、おまえはちょっとだけ土方歳三に似てるから大丈夫だ」
似てないわァやめてくれん!!と、紫暮の授業を経て土方歳三を愛するに至った小池ちゃんから怒声が飛んだ。
「松前、いいか?彼女がいきなり妙な事言っておまえと別れたのは、単純な理由だ。女が浮気したんだ。それでおまえより浮気相手に気持ちがいったんだ」
「嘘だァー!浮気なんて…浮気なんて…」
「現実を見ろ。そんな女は忘れろ。先週の授業でも話したがジョン万次郎は日米和親条約締結に尽力した偉大な教育家だぞ。それを別れのネタにするような女と別れられてラッキーと思っとけ。松前はいいやつだからすぐに彼女も出来るから心配するな。そしてちゃんと授業を聞け。わかったら返事」
「ハイッ!!!!!」
「よいお返事。大変よくできました。」
作品名:紫に暮れる空 探偵奇談25 前編 作家名:ひなた眞白