紫に暮れる空 探偵奇談25 前編
そんな言い分が通用するのかと思ったが、教師は「OK」とあっさり許可を出した。
(須丸くん無茶するなあ)
恵麻の手を引いて小走りに掛け乍ら、郁は瑞にそう声をかけた。ハラハラしてしまった。階段をあがって渡り廊下を走り、三階の社会化準備室をノックする。
「失礼します」
中に入ると、紫暮がいた。他の社会科教師は授業で不在のようで、都合よく一人だ。よくよく考えると、授業を抜けてこんなことをしていることを咎められるかもと、ここへ来てようやく郁は思い立つ。
(でも、怒られてもいい)
こんな状態の恵麻を、教室に置いておくことなどできないから。
紫暮は机に向かって資料を読んでいるようだったが、郁らの姿を認めて立ちあがった。
「先生、あの…」
郁が事情を説明しようとしたが、紫暮はすべてわかっているというように頷き、泣きじゃくる恵麻の前に立った。そして。
「やっと来た」
と、少し安堵したように言った。
「本当はあの夜、バス停で聞いてやるべきだった」
「先生…」
恵麻はしゃくりあげながら、紫暮のワイシャツの裾を両手でつかんだ。そうしなければ、もう立っていられないというように。
「いま、電話、かけてもいい…?」
紫暮は彼女の肩に手をおいて、かけなくていい、と声をかけた。
「ここにいるから」
後編へ続く
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作品名:紫に暮れる空 探偵奇談25 前編 作家名:ひなた眞白