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思いやりの交錯

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「別に攻めているわけではないんだけど、お前が何を疑問に感じたのかを知りたくてな」
 ということだったので、
「もう逃げられない」
 と思い、例のソープで予約したのを拒否られたあたりから話をした。
「そうか、そういうことだったのか。これで、繋がった」
 と言って、先輩はむしろホッとしているようだった。
「実は、俺の彼女とつかさが雰囲気がおかしいということを分かっていたのだが、その理由が分からなかったんだよ」
 というではないか。
「えっ? 彼女さんとつかささんの雰囲気がおかしいことと、僕がつかささんをつけていたことにどんな繋がりがあったというんですか?」
 と、まったく理由も分からずに、マサトは聞いた。
「ハッキリというと、お前の推測通り、つかさは、あの店のあいりなんだよ。そのことは俺も知っているし、実は俺の彼女も知っている。これは、お前だからいうんだが、俺の彼女はあの店で働いていたんだよ。そこで知り合ったのが、つかさだったんだ。俺は、彼女の客だったわけだが、俺は彼女のことが好きになり、彼女も俺のことを好きでいてくれたので、付き合うということになってから、俺のお願いとして、ソープ嬢を卒業してもらったんだ」
「先輩は彼女が元ソープ嬢でいいんですか?」
 とマサトは聞いた。
「それはどういう意味でだい?」
 と、先輩はそこまで怒っている雰囲気ではなかった。
 マサトが感じていることが分かっているかのようだった。
「俺はいいと思っているよ。ソープ嬢だって、どんなに贔屓にしている女の子だって、何度も一緒にいれば、必ず飽きがくるものだよ。これが彼女であれば、そんなことはない。彼女には何度指名しても、飽きが来る気がしなかった。しかも、彼女に次第に嫉妬してくる自分を感じたんだ。これが彼女を好きになった一番の理由なんだ」
 という先輩に、
「その気持ちはよく分かります。正直、僕も童貞の時、逆に、一人の女性を好きになって、飽きることなく、ずっと好きでいられるんだろうか? という思いがあったことから、自分が決まった彼女を作ることはできないのではないかと悩んでいたんです。だから、先輩からソープに連れていってもらっての。童貞喪失は、それなりに意義があったんです。風俗嬢に感じることは、自分の中にある、飽きという感覚を理解させてくれるのではないかと思ってですね。この間、相手をしてくれた、えりなさんと話をしていると、解決したわけでもなく、悩みが半分くらいは解消された気がしたんですが、話をしているうちに、彼女たちと話をしていると、自分がそれまで感じていた悩みを解決してくれるような気がして、先輩が風俗に彼女がいるのに通っている理由はそこにあると思うようになったんですよね」
 とマサトは答えた。
「そうなんだよ。お前の言う通りなんだよ。だから、俺も彼女のことが好きだし、つかさのことも、放っておけないと思っているんだ。だけど、彼女は引退した時に、つかさも一緒に辞めるように促したんだけど。つかさは彼氏がいるわけではなく、小説を書くという目的があることで、風俗での経験を生かして、小説を書きたいと思っていることから、すぐに復帰することになったんだ」
 というではないか。
 先輩の彼女が元、風俗嬢だったということにもビックリしたが、一度辞めた女の子がまた復帰するというのにもビックリさせられた気がした。
「まあ、一度辞めた風俗嬢が戻ってくるという話は、別に珍しいことではない。お金の問題もあれば、こういう仕事が好きで、辞められないという人もいるだろうし、言い方は悪いが、男に騙される形の女性もいるから何とも言えないんだけど、彼女のように、この場所が自分の本当の居場所だと思っている人も珍しくはないだろうからね、だから、俺は彼女が戻ったことを知らないふりをしていたのさ」
 という。
「そうだったんですね」
「ああ、だから、俺もあの時に最初に指名したのがまさか、あいりだとは思ってもいなかったので、拒否されたということも知らなかったんだ。あいりとしては、きっと俺が指名したとでも思ったんだろうな。だけど、彼女が俺に対して拒否ったわけではなく、俺の彼女に知られたくないというのが本心だったと思う。つかさとして一緒にいられることを志向の喜びだと言っていたので、その気持ちを尊重するつもりでいるのさ」
 と先輩はいうのだった。
「分かりました。僕も絶対に口外しないようにします」
「ありがとう」
 と先輩はそういった。
 しかし、マサトは、どこか納得のいかない部分があった。
「本当に先輩の彼女さんは、つかささんがまたお店に戻ったということを知らないのかな?」
 というと、
「そうなんだよ。それだけは、本人でないと分からないのでね、聞くわけにもいかないしね」
 と先輩は言った。
「だけど、皆が隠そうとしているのであれば、俺はそれを尊重してやりたいという気持ちになるな」
 と先輩は続けた。
「どうしてですか?」
 と聞くと、
「だって、必死に隠そうということは、相手に気を遣っていることだけど、相手だってこっちのことを気にしているわけなので、まったく分からないということはないと思うんだ。だから、そんな人間を必要以上に揺さぶることはしたくないし、自分の気持ちに正直になってほしいと思う」
 と先輩は答えた。
「お前だってそうなんだぞ?」
 と先輩は続けた。
「えりなにしても、あいりにしても、たぶん、お前が気に入る女性だと思うんだ。相手がどう思ってくれているか、それくらいのことが分かるようになれば、一人前だな」
 と言って先輩は大声で笑っていた。
「そうですね」
 と言って、謎が解決したことで、新たな自分が開けた気がしたのは、先輩がついていてくれるからなのに違いない……。

                 (  完  )
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作品名:思いやりの交錯 作家名:森本晃次