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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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夜が訪れるとき 探偵奇談24

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土曜の午後。弓道部の指導を終えた紫暮は、着替えを済ませたその足で、市内の文化ホールへ向かった。四時が近いが、ホールの玄関ロビーには、市民や保護者、制服姿の学生らで賑わっている。市内の大きな展示会で、スポンサーがついていたりテレビ局が取材に来たりと盛況のようだ。生徒らが張り切ってこの日を目指すのも納得である。

「あ、せーんせ~!」
「お疲れさん」

芸術文化展、とでかでかと書かれた看板の下に、うちの高校の制服姿を見つける。成瀬を含めた男女数人が、にこにこと紫暮を迎えてくれた。

「書道部、ちゃんと見て下さいね」
「写真部も頑張ったんですよ」
「あたし、新聞社にインタビュー受けた!」

賑やかに言葉を交わしたのち、成瀬らと別れる。友達同士でわいわい肩を寄せ合って歩く後ろ姿を見て、青春だなと笑みが零れた。
受付に向かう。紫暮の持ち場は、二階の絵画コーナーだ。昼の部の監視役である華道部の顧問と交替し、名札を首から下げて広いスペースを歩く。

(すごいな)

絵を見る機会など、これまでなかったが。これだけたくさんの絵画が並んでいると圧巻だった。絵の具、表現方法、芸術分野のことなどはからっきしだが、一つとして同じものはないという当たり前のことに驚く。感性や個性、表現する方法は無限だ。

(お、成瀬の)

成瀬の絵は青、水色、藍色といった系統の色だけで描かれている。絶妙な陰影、乾いた絵の具が重なり、盛り上がった模様が美しい。そして、青色だけでこれほどの種類の色が出せるのかと紫暮は感心した。タイトルは『こころ』とある。どんな思いをこめて表現したのかを尋ねてみたくなる、そんな作品だった。自然と笑みが零れている。

周囲に視線をやりながら、じっくり絵画を見て回る。それは不思議と心地よく、心が静かになって行く感覚を伴った。弓を手にして、弓道場に入ったときの感覚によく似ている。美術館に出掛ける人の気持ちが、少しだけわかった気がする。