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二重人格の螺旋連鎖

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 受付でも、まさか人が死んでいるなどと思っていないので、防犯カメラを見ることもなければ、たぶん、清掃員から、何かの報告があるのをただ待っているだけしかなかったのだ。
 それだけに、清掃員と入れ替わりで表に出ても分かりっこない。それが密室のトリックではないかと思ったのだ。
 入る時に、二人の人間が共犯でそれぞれの役割を果たしているとすれば、これくらいのことはいくらでもできるというものだ。防犯カメラに頼りすぎているところが、それこそ盲点だということであろう。
 ただ、こうなると動機なのだが、明美が絡んでいるのは間違いのないことだろう。
 ただ、明美の知らないところで、桜井と吉野が知り合いだったというのは、どういうことなのか?
 たぶん、二人はお互いに、明美のそれぞれを愛していたのではないだろうか? だから、吉野と桜井が明美のことを話したとすれば、
「同じ人間なのか?」
 と思うほどに、あまりにも違う相手を愛していたかのようではないか。
 だから、最初は、桜井が、明美の浮気を疑った。そして、調べているうちに、吉野にぶつかったのだ。
 桜井は、吉野を呼び出した。なぜラブホだったのか。
「密室を作るためだった?」
 と考えれば、これもおかしな気がする。
 それでは最初から殺すつもりだったということか?
 桜井に吉野を殺す動機はない。確かに最初は疑ってみたが、様子を見ると、二人はすでに別れていたからだ。それが、例の明美の視線を感じた時だが、これも偶然だったのだろうか?
 明美の中で、二人の人間が表に出ようとしているそのタイミングは、実にうまくできている。それこそ、潜在意識が超能力というものを作り出しているようで、
「理屈ではないのだ」
 と思わせた。
 ラブホテルを指定したのは、吉野だったのかも知れない。殺されたホテルの部屋には、よく吉野と言っていたという。吉野も、その時、桜井に対して殺意を持っていたのかも知れない。
 お互いにお互いを殺そうとしていることを、相手はまったく知らない中で、奇妙な密談が行われ、二人で部屋に入った。そこでどんな話が行われたのか分からないが、最終的に明美のことを強く感じた方が、躊躇がなかったということで、それが、桜井だったのだろう。
 ホテルの部屋から脱出して桜井は、我に返ったことだろう。
 しかし、その時の桜井は、自分があの部屋に入ったことも、吉野を殺したということも忘れてしまっていた。
 なぜなら。桜井が吉野を殺した時、吉野を恨んでいるもう一人の自分も死んでしまったのだ。
 そう、ひょっとすると、
「二人は、相手を殺そうという気持ちではなく、二人で心中しようと思っていたのかも知れない」
 と感じた。
 ただ、一瞬、明美を独り占めにしたいと強く感じた、桜井の中のもう一人の自分が、吉野を殺すことで、自分も、桜井の中で、完全に埋没して、死んだことになろうと思ったに違いない。
「相手を殺してしまうと、もう、明美には会えないだろう」
 と、それこそ、
「どの面下げて遭えばいいというのか?」
 ということになるのだが、その時には、そんな状況判断もできないでいたのだ。
 ひょっとすると、吉野を刺殺した時、桜井も一緒に意識を失ったのかも知れない。電話が入ったことで気が付いて、我に返った桜井は、どうすればいいか、必死に考えた。その時、
「もし、こんな時吉野だったら、どうするだろう?」
 と、殺した相手に、助けを求めるなどという常軌を逸した考えが芽生えたのは、
「死んだ吉野も、もう一人の自分の存在に気づいていて、悩んで嫌のではないか?」
 と感じたからだった。
 動機もハッキリしない。桜井の指紋もなぜか出てこない。すべての場所を拭き取っているのであれば、分からなくもないが、指紋に関しては、吉野の指紋だけが残っているだけだったのだ。
 手袋をしていたわけでもない。指紋が出てこない以上。物的証拠はないに等しい。桜井を逮捕することはできなかった。
 このままいけば、この事件は迷宮入りとなるだろう。
 犯人が分かっているのに、その先に大きな結界があって、手が届かない。証拠も何もなく、
「限りなく犯人に近い」
 というだけだった。
 桜井は自首してこようともしない。何しろ彼自身では、意識が殺したという記憶を持っていないからだ。
「いつかは、桜井の中で、自首しようという意識は芽生えるのだろうか?」
 と考えたが、
「もし芽生えるとすれば、明美がその扉を開くしかないのだろう。
 そんなことを考えていると、その肝心の明美は、何と今度は他の男と付き合い始めたというではないか。
「こりゃあ、もう迷宮入りするしかないかな?」
 と思っていた矢先のことだった。
「桜井という男が殺されました」
 という情報が入ってきたではないか。
 何と、その場所というのは、ラブホテルだという。もっとも、吉野が殺されたホテルとは違うホテルであった。
 犯人は誰か分からない。今回も密室の中での出来事であり、吉野と同じように、背中から刺されて、ベッドの上にうつ伏せになって倒れていたというのだった。
 捜査を始めた警察であったが、捜査は完全に難航した。なぜなら、事件のカギを握ると思われた、明美というストリッパーが、発狂してしまったことで、病院に担ぎ込まれたということだったからである……。

                 (  完  )
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作品名:二重人格の螺旋連鎖 作家名:森本晃次