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あみのさん

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二人が夜の繁華街を歩いていたとき、少し怪しげな店のプラカードを掲げて、ビラを配っているお兄さんが、亜美乃に向かってからかうような顔で何かを言った。三郎は知らんぷりして通り過ぎようとしたが、亜美乃は少し行き過ぎてから立ち止まり、スタスタとそのお兄さんの所に歩み寄った。三郎は、どうするつもりだろうと思ったが、あまりかかわりあいたくはなかった。お兄さんは堅気に見えない。しかし亜美乃のことも気になる。しぶしぶという感じで、三郎は亜美乃の側に行った。

 特に険悪なムードでは無く、亜美乃に向かってお兄さんが笑って何かを言っている。三郎が近づくと亜美乃は三郎の腕をとり何事も無かったように歩き出した。三郎は「今の何?」と聞いた。
「あ、あれ? あんたどこの組のものだいと聞いたの。そしたらバイトだって」
「えっ! 亜美、亜美乃さ、ん、組とか関係あるの?」
三郎は、ビックリして腰を引くようにして言った。
亜美乃は、さも可笑しそうに笑いながら、「ウソよ」と言った。

三郎はまた亜美乃が解からなくなった。ウソとはいうなら、何のためにあの男の所に寄っていったのだろう。三郎はその理由を知るのが怖い気もしたが、確認するように亜美乃に訊ねた。
「亜美乃さんは、普通のうちの子だよね」
「アミノさんじゃなくてアミでいいわ。で何? 普通のうちって」
「その、ほら堅気の」
「父は船乗りだったけど、私が小さい頃亡くなっていて記憶にないわ」
「そ、言ってたね。お母さんはどんな人?」

作品名:あみのさん 作家名:伊達梁川