小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

あみのさん

INDEX|7ページ/40ページ|

次のページ前のページ
 


亜美乃は屈託がない。三郎は出会って間もない二人の関係が、急流に流されるように進んで行くような気がした。最初のデートで手をつないで、そして今日は……。三郎の頭の中にあった最初のデートとは、微妙な間をおいて並んで歩いたり、二人の共通点を確かめあったりしながら、もっと知りたい位でその日は次の約束をして別れる。最初から手をつなぐなんて予想もしていなかった。ましてキスなんて、1ヶ月か2ヶ月経ったあとで、ぎこちなくという漠然とした思いがあった。しかし現実は違っていた。亜美乃と自分とでは時間の流れが違うのだろうかと、SF小説が好きな三郎は思った。そう言えば亜美乃は本を読むのだろうかと思って聞いてみた。

「本、小説なんて読む?」
唐突に三郎が言うものだから、ナイフの動きを止めて亜美乃は三郎の顔を見た。そう言えばこの人、私の名前呼ばないわ。照れるのかしらと思いながら、「え、私?」と言った。
三郎は「うん」とうなずくだけだった。
「私ね、こう見えても結構好きなんだよ。」と言いながら亜美乃はバッグから本を取り出した。「エッセイが多いけどね」
「エッセイ、何それ小説じゃないの」
三郎はエッセイというジャンルがあることを知らなかった。
「なんていうんだろう、評論、じゃないね、あ、随筆」
亜美乃は得意そうに言って、「あんたは」と言う。そう言いながらも自分の皿から三郎の皿にライスの一部を移している。
「SF」三郎が短く言う。それから奇妙なくすぐったい感じがするのを感じていた。それは亜美乃が自分のことをあんたと呼ぶし、食べかけのものを平気で食べさせるので、夫婦のような気になってしまうからである。

その日、二人は、スポーツ選手のように握手をして別れた。一人でアパートに帰る道すがら、ちょっとだけ三郎の住んでいるアパートが見たいと言って、亜美乃が部屋に来た時に、言ったことばを思い出した。
「ハブラシを持ってくればよかったかな」
唐突にハブラシが出てきて三郎は「え?」と聞き返したのだった。
「同棲しようかなあと思って」
笑いながら言ったあと、すぐに亜美乃は他の話題に変えてしまったのでそれは聞き間違いかなと思えるほどだった。二十歳の亜美乃は数年後を考えているのかもしれない。しかし二十歳の三郎は何も考えてなかった。ただ亜美乃と一緒だと楽しいし、自分にはつきあっている女性がいるというだけで十分だった。

夜になって布団に入ってからも、まだ唇の感触は残っていて、生涯消えないのではないかとも思った。「亜美乃さん」三郎はそっと呟いた。
(アミノサンは美味しい)また頭の中で言葉が浮かんだ。

作品名:あみのさん 作家名:伊達梁川