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あみのさん

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亜美乃は悪戯ぽい表情をすると、三郎の耳元で小さい声でそう言った。
三郎は、見栄をはって「ある」と言いたかったが、亜美乃は分かっているのだろうと思い、黙って首を振った。
「そのままにしていて」
ささやくように言われ、三郎は前を向いたまま固まった。
柔らかい唇が、三郎の唇をとらえ、かすかに吸引している。三郎は頭の芯がしびれたような気がした。それは長かったのか短かったのか時間の観念が無くなったようだった。回りの音さえも記憶がない。少しずつ離れた場所での会話が耳に入ってきた。

ボーッとした三郎の顔を見ながら、それでも少し恥ずかしそうに亜美乃は言った。
「勘違いしないでね。私はふしだらな女ではないのよ」
三郎は、子供っぽいと思っていた亜美乃が急に何歳か年上に見えたのと、唇がしっかりと亜美乃の感触を記憶しているのを反芻しながら頷いた。色々なことが初体験だった。自分と同じ歳の女性は隠すのではないかということも亜美乃は隠さない。たぶんふしだらな女ではないということも事実なのではないかと思った。
「さあ、出ようか」明るい声で亜美乃が言う。
亜美乃が今度は出会った頃の顔になったなあと思いながら、三郎は立ち上がった。
 
二人はレストランに入ってセットメニューを頼んだ。二人とも好き嫌いが特に無いということを確認した。
「料理の本もいっぱいあるんだ」
亜美乃は器用にナイフとフォークをあやつりながらそう言った。
「じゃあ、なんでもできるんだ」
三郎は少しぎこちなくナイフを扱いながら応える。
「ほら、お手伝いさんやってたから。あ、これ少しあげる」
亜美乃が自分の皿から料理の一部を三郎の皿に移した。まったくさりげなく、異性の食べかけとも言えるものをもらって、三郎は一瞬いいのだろうかという目で亜美乃を見た。
「こんど作ってあげるね」

作品名:あみのさん 作家名:伊達梁川