あみのさん
夕食を三郎にはやや高級に見えたレストランで食事をしながら、亜美乃は絵の話をした。三郎も唯一好きだったルソーの名前を出したが、亜美乃はシャガールだのモジリアーニだのと、三郎には料理の名前にしか思えない名前が出てきて三郎はただ頷くだけだった。小さな口に上品な感じで食べ物を運ぶ仕草も、出てくる話題も、同じ歳とは思えない。三郎が唯一亜美乃に勝てるものは音楽だった。しかし、ジャズは無視され、映画音楽やムードミュージックで亜美乃はやっと反応を見せた。
三郎はあっという間に夜になった気がした。アパートの万年床に座り、ステレオのスイッチを入れる。FM放送が流れてきた。三郎は先に電車から降りてホームで手を振って別れた亜美乃の笑顔を思い出していた。そして手の感触、ころころと変わる表情。
三郎はボーッとしたまま呟く「あみの、アミノサン、アミノ酸」三郎はハッと我に返ったようにあたりを見わたす。脱ぎ捨てられて横たわるジーパンが目に入った。いつまでもボーッとしているんじゃないという様に、手をつないだ二人の後ろで鳴っていたクラクションを頭の中思い出していた。