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あみのさん

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三郎は洋子と一緒にあたり触りの無い会話をしながら、湖の中央でボートを漕ぐ手を休めた。さっき亜美乃がいたあたりを見る。人影は無かった。林の中に入って行ったのだろう。洋子は高校生時代の話をしだした。思った通り、お嬢様まではいかなくても、何不自由なく育ってきたらしい。
「ね、青春時代という歌知ってる?」

そう言うなり洋子は歌い出した。三郎はその清潔そうで少し甘ったるいような声を好きになった。つられるように三郎も歌う。洋子の顔が湖面の反射光を受けて輝いている。
「ヒューヒュー」「似合うよ。お二人さん」

いつの間にかボートが近づいていて二人をからかうようにはやし立てる。グループで一番年上の女性と一番年下のカップルだった。そしてそのまま逃げるように去って行った。

三郎は複雑である。誰にも言ってはいなかったけれど、亜美乃と付き合っていたことは、同僚の皆はうすうす感じているのでは無いだろうか。そしてだんだんおかしくなっていったことも。そして目の前で満更でもないという表情の洋子は知っているのだろうか。亜美乃は何を思って林の中で木々をスケッチしているのだろう。三郎はまた林の方を眺め亜美乃の姿を探している自分に気づいて、もう終わったいるのにと苦笑した。
「なあに」と目の前の洋子が私の顔をみて言った。洋子には自分の姿がどう映ったのだろう。三郎はボートを勢いよく漕いで岸に向かった。 
 
山の輪郭を際だたせる夕焼けを見ながら下り坂を歩く。いつの間にか洋子が側にいる。自分に好意を持ったのだろうかと三郎は思ったが、それは思い上がりかも知れない。そして余りにも亜美乃とはタイプが違う。三郎は洋子を向いて「転がったほうが早いんじゃない」と言うと、洋子は「あら」と言って、三郎を見て叩く仕草をした。それを亜美乃がちらっと見たのを三郎は目の端に感じた。

作品名:あみのさん 作家名:伊達梁川