あみのさん
9 クラクション2
暑い夏が終わろうとしていた。亜美乃の化粧はだんだんと濃くなっていった。少年ぽい感じの顔がしっかり大人の女の顔になって、三郎には取り残された感じが残った。女の二十歳は急に進歩するのだろうが、男の二十歳は急には進歩しないものだと感じた。そういえば亜美乃はもうすぐ二十一歳になるはずだった。
今日、亜美乃は電話の相手と会っているようだ。亜美乃と別れを言い出したり言われ訳ではないのに、三郎は寂寥感を感じながら一人で食事をしていた。冷房が寒く感じられ、ちょっと前の体にまとわりつくような暑さが恋しく思った。
会社での亜美乃は、特に冷たい態度をとる訳ではないが気のせいか三郎を避けているような気もした。会社の帰りに時間を合わせるようにして一緒に帰ることもなくなった。三郎の頭の中にはずーっと亜美乃がいるのだが、誘うことがためらわれた。それは亜美乃の最近の雰囲気と自分の心の中に問題があることは解っている。多分亜美乃もそうに違いないと少し自惚れながら思ってみたりした。三郎は他に女が出来たわけではない。亜美乃が自分と付き合う前から、かなり年上の男性と時々逢っていることは亜美乃自身が言っていることだったが、どんな仲なのか微妙に三郎の心にひっかかっていた。
夏の終わりになって三郎も亜美乃も急にブレーキを作動させたみたいになってしまった。
三郎が、だらだらと一人パチンコをして過ごしてしまった日曜日の夕方、貧しい夕食を終えた頃、亜美乃から電話がかかってきた。
「これから逢いたいんだけど、いいかな? 話したいことがあるから」
亜美乃の少し沈んだような声に、遂に来たかという思いと、まあしょうがないという思いが三郎の頭を占める。駅前で会う約束をして電話を切った。もう駅の近くにいるらしい。