あみのさん
しばらくその姿勢のまま、二人はじっとしていた。酔っぱらいが二人を冷やかしながら「若いときゃあ、二度とない、どーんとやれ」と歌いながら通り過ぎた。
三郎の中の堪えがたいような憂うつが、いつの間にか小さくなっていた。
「少し、気分が良くなった気がする」と三郎がツリというと、亜美乃は体を離して、話し始めた。
「私、感じないの。全然では無いけど、それに男の人みたいに出ないし」
三郎は亜美乃が性の知識が無いのだろうかと思った。
「女の人は射精はしないでしょう」と少し笑いながら三郎が言ったが、それでもまだ納得していないようだった。感じる感じないは何を基準とするかによって違うだろうが、他人の感覚を理解するのは難しい。
「それに、どうして俺が気分が悪くなったのとアミが感じないみたいというのが結びつくのよ」
三郎がそう言うと、全然関係はなくないとでも言うように何か言おうとして黙った。しばらくして言った言葉は「あれ、気分が良くなったの」だった。
いまやっと気づいたように、亜美乃が言ったので三郎は笑ってしまったが、それは屈託のない笑いという訳にはいかなかった。まだもやっとした感じは残っていた。
「今日は帰ろう」と言うと亜美乃は素直に頷いた。その表情は曇ったままだった。
駅に向かう道、まだ三郎の頭の中にはサマータイムの歌が流れていた。