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あみのさん

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亜美乃は前をむいたまま、
「ずうっと後をつけて来たんだよ。色々考えながら。何か怒らせたのだろうか。そういえば私だけずっとしゃべり通しだったなあとか、本当にどこか悪いのだろうか。さっきまで元気だったのにとか思いながら。」
と亜美乃はそこで少し間を置いて、
「悲しい想像もしちゃった。」
そして三郎の方を向いた。その顔は無理に笑っているようで、涙ぐんでいるようでもあった。

三郎は砂場に視線を移し「ごめん。自分でも分からないんだ。何だか自分がものすごくちっぽけな奴に感じてしまって」
それだけ言った。説得力の無い言葉だなと自分でも思うのだが、それしか出てこなかった。亜美乃は黙って砂場を見ている。三郎もまた視線を下げたまま言葉が出てこなかった。
頭の中で、あの音楽が流れている。悲しくて胸を撃つ「サマータイム」のイントロが。

しばらくして無言に堪えられないというように亜美乃が立ち上がった。
「一緒に来て」と有無を言わさぬ口調で亜美乃は言って歩き出した。三郎はその後ろ姿をしばらく見ていたが、すぐ後を追った。追いついて横に並び亜美乃の横顔を見る。きりっとしたその顔は何かを決断したようだった。ちょっと前まで歩くのがゆっくりだったのに、さっさっと歩いている。向かった先にはHOTELの看板が見えた。
「アミ! 止めようよ」
三郎は、そんな気分では無かった。
「何よ、男でしょう。私に恥をかかせる気」 
亜美乃の強い言葉に、三郎も言葉が無かった。雨の日にみせたブルーな亜美乃よりも、ずーっとそれは三郎の気をひいたが、それは強がりかも知れない。

「私、確かめたいの」 
亜美乃はずんずんと歩く。三郎の中に、何か衝動的なものが湧いてきて亜美乃の肩を掴んだ。さらに前に行こうとする亜美乃の手をとって引っぱった。なおも前に行こうとする亜美乃の力が急に無くなって、三郎の胸に埋まった。三郎は優しく肩を抱いた。
亜美乃は「確かめたいの」と泣きながら言う。三郎が初めてみる涙だった。

作品名:あみのさん 作家名:伊達梁川