あみのさん
三郎は何と言っていいか分からなかった。黙って亜美乃を抱き寄せた。固く拒否していた亜美乃の身体が三郎の脇の下に納まった。猫の親子のようだと三郎は思った。
「ふふ」と亜美乃が笑った。
「ん、なに?」三郎は亜美乃を見た。 亜美乃が三郎の乳のあたりを見ている。
「ひょろっと毛が生えてる」
「イタッ」 三郎が悲鳴をあげる。
亜美乃は「遅れたバツ」と言って笑った。三郎はその顔を見て、ああ良かったと思った。
しかし、今の笑顔も、駅で見せた暗い顔も亜美乃なのだということがわかった。
「痛かった?」
「そうでもないけど、まさか引っぱると思ってなくて」
「治してあげる」
亜美乃は三郎の胸に口づけした。くすぐったい感じと、幸せな感じが次第に下へ下がって行くのを三郎は複雑な思いで身に任せた。
そのまま寝てしまったた翌日。三郎はまた大失敗をしてしまった。亜美乃が部屋を掃除している間、飼っている小鳥の餌を買ってきてと言われた三郎は近所の商店街に出かけた。女のアパートから外に出るのもいいものだなと思いながら歩く。朝晩涼しくなっていて気分も良かった。閉まっている店もあり、歩いている人も少ない。
(アミノ、アミノ、アミノさん。きょうのごきげんいかがです)
即興の歌を口ずさみながら歩く。小さなペット屋で小鳥の餌を買い、鼻歌まじりにアパートの帰る。入ったとたん、下駄箱を見て困ってしまった。「あれ、どこにいれればいいのだろう。昨日は亜美乃が手早くやってくれたので覚えていない。そうだ、男物の靴は置いてちゃいけないんだと思い出した。部屋に持っていって、ちょっと前に部屋を出るときに持って出たことも思い出した。三郎は靴を脱いで、片手に持ってスリッパを捜した。入れた場所を思い出そうとしている時、するどい男の声がかかった。