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あみのさん

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亜美乃がちょっとイヤなことを思い出してしまったというような顔をして、野菜を鍋に放り込む。三郎もまたその言葉が心に響く。
「あんた、何か食べてきたの」
思い出したように亜美乃が言う。三郎は申し訳なさそうに「餃子を少し」と言った。ビールを飲んで餃子を食べて、招待席に来るなんて、なんてバカなんだろうと改めて三郎は思った。
「そう」だけ言って亜美乃が肉をどさっと入れた。文句を言われるのかと思っていた三郎は、現代的と思っていた亜美乃が、以外と古風な女に思えた。ジュウという音とともに油煙が白く上がった。醤油のこげた香ばしい匂いがあたりに漂う。亜美乃が黙って割り箸を渡す。三郎は無理に大きい声をだして気まずい雰囲気を破ろうと「ほんとにごめん」と言った。亜美乃も、せっかくのご馳走を怒って食べたくないと思ったのか「いい匂い。頂きます」と鍋の肉をつかんだ。

二人きりで若い女の子の部屋にいるという幸せをじっと噛みしめながらも、三郎はどこかにひっかかるものを感じていた。目の前で無邪気そうにすき焼きを食べている亜美乃の暗い表情をみたせいだった。今まで見た表情で最悪だった。駅で長時間待っている間に色々なことが頭をよぎったのだろう。亜美乃はずっとあの時間を忘れられないかも知れない。

少しだけビールを飲んで、亜美乃らしくなった。ちょっとだけ馬鹿馬鹿しいテレビ番組を見て二人で笑った。
「小さい頃の写真がみたいな」と三郎が言ったとき、一瞬亜美乃の顔が何かいやなことを思い出したように曇った。
「あまりないのよ」と言いながら、亜美乃は立ち上がり押入の戸を開けた。三郎がその後ろ姿を目で追う。小さな胸と反比例するかのようににお尻が以外に大きく、柔らかい曲線が三郎のどこかにツンとした感覚をもたらした。


作品名:あみのさん 作家名:伊達梁川