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あみのさん

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駅から二、三分の間、亜美乃は黙って歩いた。いっそ怒鳴りちらして責めてくれたほうがいいなあと思いながら、出会った頃の亜美乃ならそうしたであろうと思った。忘れていた胸のもやもやが大きくなったような気がした。

大通りから細い道を何回か曲がって亜美乃が住んでいるアパートに着いた。静かである。皆部屋にいるのだろうか。それともまだ皆帰っていないのだろうか。そこはやはり寮のような感じだった。アパートに入ってすぐ下駄箱があって、廊下はスリッパを履いて歩くようになっていた。

亜美乃が奥の気配をさぐるようにしたあと、そうっと三郎にスリッパを勧めた。自分は裸足のまま、先に立って二階への階段を上がる。三郎もちょっとしたスリルを味わいながら後に続いた。二階の廊下でも人には会わなかった。

部屋に入ってほっとした。やはり自分の部屋とは違って華やかな感じがした。テーブルには卓上コンロが置かれていた。亜美乃は食事の支度をしながら
「1階の奥が大家さんちで、結構頑固でうるさいんだけど、そういうところがうちの母が気に入って一人住まいを許可してくれたわけ」と亜美乃が説明した。亜美乃はあまり母親の話をしなかったが、ここを借りる時に来たことがあるということだ。
「見つかるとうるさいの」とテーブルにすき焼きの材料を乗せながら声をひそめて言った。

やっと普段の表情に戻った亜美乃にほっとして、三郎は辺りを見回した。勉強机のようなデスクと鏡台が置かれた他は皆押入に入っているらしくシンプルで片付いていた。若い女の子が好むベッドも置いて無い。
「片付いているでしょう」と言いながら亜美乃が側に座った。
「俺の部屋と随分違うなあ」三郎が素直な感想を言う。
「さあ、食べよう。お腹空いた。待たされたからなあ」

作品名:あみのさん 作家名:伊達梁川