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あみのさん

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7 黄色い小鳥



会社の昼休みに「今日、料理を作るから部屋にこない」と亜美乃が言った。
「あれ、男子禁制のアパートじゃないの」
三郎が意外そうに聞いた。亜美乃のアパートは学生会館のように寮っぽい所だと聞いていた。
「うん、そうだけど」と少し自信のなさそうに言ったあと、悪戯っぽい顔になって、「そうっと入ればいいよ」と言った。

三郎にとって、かなり魅力的な提案であり、即座にOKした。明日は休日である。女性の部屋に行くなんて初めてのことだった。このところの二人の停滞気味の関係を進展させるかもしれないと思った。亜美乃もまたそう思っていたのかも知れない。退社の時間になって、用意のために亜美乃が先に帰り、三郎は1時間ほど遅れて駅で待ち会うことに決めた。三郎は仕事中も嬉しさを押し隠しながら過ごした。

三郎は運命の神様が悪戯をしたように予定が狂ってしまったのを感じた。ゆっくりと会社を出ようとした時に社長につかまったのだ。
「ちょっと、一杯だけ飲んでいかないか」と、そんなに酒豪でもない社長に言われて、ちょっとだけならと一緒に会社近くの飲み屋に入った。
「今日は、みな断るんだよ。俺だってたまには社員と飲もうと思っているのに」と言いながら、速いピッチで飲み始めた。三郎はちびりちびり飲んでいたが、社長はどんどん注ぎ足してくる。忘年会などでもそんなに飲まなかった社長だが、今日に限ってよく飲むなあと思いながら。社長のグチを聞いていた。話の腰をおるタイミングも掴めぬまま、三郎は時計を見てハラハラしていた。

ようやく「出ようか」という社長の言葉にホッとして店を出たのは、待ち合わせの時間になっていた。社長と別れてから慌てて亜美乃に電話をしてが出ない。丁度駅にいる時間だった。三郎は電車の進むのをもどかしく感じながら、亜美乃の顔を思い浮かべる。出会った頃の顔と今の顔、笑った顔と怒った顔。最近時々見せる暗い顔。

その暗い顔で亜美乃は駅の前で待っていた。一瞬ホッとしたような表情を見せたが、すぐに怒ったような暗い顔になった。三郎は「社長が、誰も相手にしてくれないと言うものだから」と言い訳を並べたとき、ちょっとだけああそうかという顔をしたがが、亜美乃には自分が軽視されたという思いは消えないのだろう。亜美乃はどんな気持ちで1時間近くも駅前で改札から出てくる人々を見ていたのだろうか。三郎は今さらに自分のバカさ加減に情けなくなった。

作品名:あみのさん 作家名:伊達梁川