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あみのさん

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三郎が側によると亜美乃は両手で胸を隠している。亜美乃には似合わないなあと思ったが、すぐにその意味が解った。
「私、胸が小さくて自信がないの」と言った。それは予想されたことで、かえって三郎を冷静にさせた。少しずつ亜美乃の手を剥がしながら、小さい胸を揉んだ。まだ亜美乃は胸にこだわっていて、「恥ずかしい」と言って手で隠そうとした。何だか、普段の亜美乃と違っていて三郎が面食らいそうだった。

三郎は亜美乃の手をどけながら小さな胸に口づけをした。
「あんた、うそ言ってるでしょう。初めてじゃないでしょう」
また(あんた)に戻って亜乃は言っている。それは、理性を失いたくないとでも思って無理に喋っているようでもあった。

あんなに心配した初めてのそれを、まあ、手短かに済ませてしまったものの、無事に終えて、三郎は自分がやっと大人になった気がした。亜美乃は自分が先に立ってここへ入ってきた姿が別人のように脇で眼を閉じている。少しだけ見えている胸を、布団をずらして隠してあげた。亜美乃の弱点であろうその胸は、たしかに男を夢中にはさせないだろう。三郎は少し悲しくそう思った。

多分、隣に飲食店があるのだろう。今まで気にはならなかった音楽が外から聞こえてきた。男女の別れをせつせつと歌っている。

「やーね、出会ったばかりなのに」
寝ているのかと思った亜美乃がポツリとそう言った。三郎は自分の身には置き換えて聞いていなかったが、亜美乃はそうではなかったらしい。少したよりげなさそうな小さな顔が天井を向いている。三郎は黙ってその小さな頭を自分の胸に抱きかかえた。亜美乃は自由になっている腕を三郎の背中に回してしばらくして、それから安心したように寝息をたてはじめた。


作品名:あみのさん 作家名:伊達梁川