あみのさん
亜美乃は、自分で言ったものの少し照れたように顔をして下を向いた。
三郎は無理に大人にさせられた子供のように戸惑ってしまった。前を向いているのだが、亜美乃の太ももの残像が現れて、恥ずかしそうな亜美乃の顔がまた輪をかけて、体の芯のほうで何かが騒いでいる。
「こんど行ってみようか」
そんな少し気まずい空気を破ろうと、冗談のつもりで三郎は言った。しかし、亜美乃は真剣な表情で「行ってみたいなあ」と言った。
三郎は、率直な亜美乃が好きだった。しかし、実は亜美乃は(待つ女)なのではという予感もあった。自分は亜美乃の期待に応えられるのだろうかという自信の無さもある。あのホテルだって、何をどうすればいいのだろう。と、もう逃げ腰になってしまっていた。
亜美乃はそんな三郎をけしかけるように、「行ってみようよ」とさらに続けた。三郎はウブな乙女のように、グズグズ返事を渋っている。そんな三郎の背中を押したのは、公園のチャイムとアナウンスだった。
「本日は……時をもって閉園となります……」
三郎は、意を決して亜美乃を腕にすがらせ、ホテルじゃなく、旅荘に向かった……つもりだったが、亜美乃の刑事に犯人の三郎が引っぱられているような気分だった。
結局、公園を出てから街に出て食事をしたり、ぶらぶらしてしっかり夜になってから二人は繁華街のはずれにある旅館に泊まることになった。
亜美乃が部屋の交渉をして、二人は部屋に入った。流行らない民宿のような地味な造りの部屋だった。クーラーが大きな音の割には控えめな冷え方で、用途からすればあまり寒い部屋でなくて丁度なのだろう。程なくおばさんが、お茶を持ってきて、一通り説明してすぐに出て行った。
手持ちぶさたに三郎が部屋を見わたしていると、亜美乃は好奇心いっぱいにあちこち見回っている。まるで男と一緒にきたのではなく、女同士で取材にきたかのようである。三郎は少しはぐらかされたような、またほっとした気持ちで亜美乃を見ている。全てを任せられたらどうしようか、失敗したらどうしようかとここ来るまでに色々考えていたのだった。(修学旅行のようなもんだ)と三郎は無理にそう思おうとした。実際、ぼーっとしている三郎に枕が飛んできたのだから。
三郎は枕を拾って亜美乃に投げ返した。亜美乃はドッジボールの要領で枕をお腹で抱えた。そしてそのまま、布団の上に仰向けに寝てしまった。三郎が近づくと、亜美乃は待ってましたとばかりに枕をぶつけようとした。しかし、寝たままでは力が入らず、三郎に上から枕ごと押さえつけられた。汗のにおいと女の匂いが三郎の男をめざめさせる。亜美乃の口を求めていって、亜美乃は少しだけそれに応え、それからゆっくり起きあがった。枕を横に置くと、「ちょっと横を向いていて」と言って、脱ぎ始めた。やがて亜美乃は布団に入っていて、小さい声で「あなたも脱いで」と言った。三郎は聞き間違いかと思った。いつも「あんた」と言っている。今は「あなた」と言った。三郎は少しだけ大人になった気がした。