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あみのさん

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「映画でもみようか」三郎は一つの選択肢が見つかった嬉しさで言った。
「うん、怖ーいのがいいなあ」
三郎の反応を確かめるような悪戯っぽい目で亜美乃が言う。
「えっ!」
三郎は、そんな趣味かと一瞬思ったが、女性ってキャーキャー怖がっていそうで楽しんでいるのを見たことがあったので、納得もした。本当は笑える映画が見たかった。どうかどぎついものは演っていませんようにと祈りながら映画館が何軒も集まっている方にポスターを見ながら、だんだんと近づいて行く。

三郎の選択肢はいくつかあるものの、亜美乃はもう決めたようだった。三郎を引っぱるように、亜美乃はまっすぐにその館へ向かった。だんだんと見えてきたポスターには怪談という文字が見える。三郎は階段も怪談も苦手だと思いながら引きずられるように、チケット売り場の前に立った。
「これぇ?」

三郎は少しイヤだよと言うニュアンスを込めて亜美乃を見ながら言ったが、亜美乃はニッコリ頷いた。まさに輝いて見えるその顔を曇らせるなんて出来ない。
「大人二枚」
三郎はサイフからお札を取り出し、少し不機嫌な声を出して窓口に差し出した。チケットの一枚を亜美乃の手に渡したとき、亜美乃は「大人一枚、子供一枚と言ったらどうしただろうね」と、さも楽しいことを発見したかのように三郎を見上げて言った。
たしかに身長は子供に見えなくもない。180センチと150センチちょっとだ。
「どういう関係だ?」と三郎も興味半分に聞いた。
「兄妹だとしたら小学生の妹か、さすがに無理かなあ、でもこの歳の兄妹が手を握りあいながら映画館に入るのも変だね」

亜美乃はククククという感じで笑った。三郎もつられて笑ってしまった。ロビーにいた数人が興味深そうに三郎たちを見ている。
「じゃあ、パパにしよう。パパ、早く行こう」
亜美乃は私の手を引っぱって客席への扉に向かった。また何人もの怪訝そうな視線が二人に向けられた。たしかに三郎は少しオジサン顔ではあるが、まだ二十歳になったばかりだ。だいいち亜美乃は三郎より半年上なはずだ。亜美乃は好奇の目を面白がりながらスキップするように歩いた。これから見る映画の内容とそぐわない会話をしながら、入ったが、中ではさすがに亜美乃も大声は出さず、真剣に映画を見ている。途中からの映画だったが、こった筋がある訳でもなく、それも有名な怪談の古典作だったので、分かりやすかった。

作品名:あみのさん 作家名:伊達梁川