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あみのさん

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5 別れ歌



公園の芝生には沈みかけの西陽があたっている。上半身裸で肌を焼いている人もいた。小さな子供は疲れをしらないように走りまわっている。陽の当たらない木の下を歩いたとはいえ、夏の陽ざしは二人の歩みをゆっくりにさせる。

「疲れたね」亜美乃が三郎を見上げて言った。
「けっこう歩いちゃったからね」と三郎が言う。

目に入る園内のベンチはほとんど塞がっていた。三郎は芝生に入り木の下に向かった。
振り返ると亜美乃は、空を見ながらゆっくり歩いてくる。西陽が亜美乃の顔に横からあたって陰影をつけている。小さな顔に大きめの眼、そして小さな口。すーっと通った鼻すじが強調されてインド人のように見えた。三郎はちょっと見とれる。

「何? どうしたの」
亜美乃が気づいて少し照れたように尋ねた。
「インド人みたい」
三郎がそういうと、亜美乃は「そんなに色黒い?」と聞き返した。
「いや、神秘的だなあと思って」
「それ、喜んでいいのかしら」
亜美乃はそう言って、芝生の三郎が座った隣に座った。ややミニのワンピースの裾があがって太ももが見えた。三郎はそれに眼を奪われたが、意識して視線を足の先にやった。形の良い小さい足の先にはピンクの靴が見えた。今頃になって亜美乃の靴の色に気づいた。
「きれいな足」思わず口に出る。
「少しO脚だけどね」

亜美乃はまんざらでもないようにそう言って、ワンピースの裾を引っぱった。それはまた見てくれというようにも感じられて、三郎は太ももに視線をやって、じっと見るのも失礼だし全然見ないのも変だろうなあ、どうすりゃいいんだと、それからまた視線を外した。
 その視線の先にホテルの看板が見えた。隣に旅荘という文字も見えた。
「あんなところにホテルがいくつもあるね」と三郎が言ったとき、
「泊まりたいの?」と亜美乃が言った。
「ちゃんと自分の家に帰れるよ」と無邪気に三郎が言った時、亜美乃が笑い出した。
「あんた、ホントニ知らないの」と三郎をバカにしたように言った。
「えっ、何?」
三郎がポカンとしているところへ、亜美乃はお姉さんのような口調になって言った。
「公園でムードを作って、あそこでするのよ」
「えっ、何を」と言いながら、三郎は途中で理解した。 

作品名:あみのさん 作家名:伊達梁川