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あみのさん

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中は薄暗くなっていて、小さな乗り物にのって移動して行くようになっていた。想像とは違い、とりたてて怖いものも無く、子どもむけのようなオバケたちを無視して三郎は亜美乃を見ていたが、亜美乃もそれほど喜んでいるようには見えなかった。

視線を感じたように亜美乃が三郎を見る。三郎は亜美乃が何か言ったように思えたが、それは騒音にかき消されて解らなかった。
短い時間でお化け屋敷は終わってしまった。外に出てから亜美乃は三郎を見てポツリと言った。
「チャンスだったのに」
えっ、何を言っているのだろうと三郎は思った。
「何?」
三郎がそう聞くと、亜美乃はやれやれという表情をして 「キスするチャンスだったのに」と言った。

たしかに中は暗くて、誰も見ていない。すぐ隣に密着して相手がいる。若い男女のカップル。それが自然なのだろうか。三郎は全くそんなことは考えもしなかった。そして自分はまだ子供なのかという思いと、亜美乃が別世界の育ちであるような気もして、自分が追いついて同じ次元で付き合っていけるのだろうかという気持ちも湧いてきた。

亜美乃はもうキスのことは忘れたのだろう。また別の顔になっている。今度は子供の顔だ。視線の向こうにはメリーゴーランドがあった。もう日没して灯りに照らされた白馬が踊りながら回っている。小さい子供たちが帰ったのであろう。順番待ちは無さそうだった。

亜美乃は三郎を見上げた。その目に周りの灯りが写って少女マンガのような目になっている。
このスピードなら大丈夫。三郎はそう確信して白馬にまたがった。亜美乃が隣の馬に乗った。軽快な音楽が流れて動き出した。それはかなり気分を高揚させる動きをして三郎を満足させた。三郎は亜美乃を見る。ちょっと前に、キスしてくれればいいいのにと言った顔とは別の子供の顔になっている。どちらが本当の顔なんだと一瞬思ったが、どちらも亜美乃なんだということは解っている。

その子供の顔のまま、園内のレストランでお子様向け風のメニューを注文して亜美乃は満足そうだった。そして三郎に聞いた。
「あんた小さい頃、お父さんに遊園地とか連れて行ってもらったことあった?」
三郎は田舎での小さい頃を思い出した。兄弟も多かったし、回りは田畑と山林である。そんなことあるはずない。遊園地なんていう存在も知らなかったのではないだろうか。
「ぜんぜん」


作品名:あみのさん 作家名:伊達梁川