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あみのさん

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退社の時間になって三郎は「今日は、後楽園に行ってみようか」亜美乃に提案した。亜美乃は、これ以上無いといった笑顔で力強く頷いた。今までそぶりには出さなかったが、三郎が主導権を握るのを待っていたに違いない。三郎はその顔をみて、もう何でもしてあげるという気持ちになった。

いつもゆっくりと歩く亜美乃に合わせて、三郎もゆっくり歩く。身長と足の長さが違うので、亜美乃が三歩歩くときに三郎は二歩だったが、その速さにも慣れてきた。女子の同僚が二人を追い越しながら、「お先に」と言った。そしてその顔には二人の仲を探るような表情があった。

夏の太陽はまだ名残惜しそうに、西の空に残っていた。暑さのせいだけでなく、亜美乃は手をつないだり腕を組もうとはしなかった。まだ仕事を終えたばかりということもあるが、三郎とつきあっていますということを同僚に知らせてはいないのだろう。三郎もまた社内ではそうしていた。

別に隠しておきたいと思っているわけではないのだが、亜美乃を完全に知ったわけではないということが、そうさせている。深く聞くと二人の仲が壊れてしまいそうな気もして、亜美乃が自分から語る田舎での生活と東京に出てきてからの話をほんのちょっと聞いただけだった。特に高校時代に田舎の港町でダンスを踊っていたという話は、山と田畑に囲まれた中で高校時代を過ごした三郎には全く別世界の話だった。

作品名:あみのさん 作家名:伊達梁川